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「肺高血圧症の病態」武田 裕氏

肺高血圧症は予後不良の希少疾患であるが、近年、病態の解明と治療薬の開発が進み、治療法が著しく進歩しつつある疾患として注目されている。

武田氏は、肺高血圧症の病態等を概説するとともに、早期発見・早期治療の重要性について述べた。

肺高血圧症とは

血液の循環は、肺循環(右心室→肺動脈→肺→肺静脈→左心房)と、体循環(左心室→大動脈→全身の器官・組織→大静脈→右心房)から成る。肺循環では体の全ての血液が循環しており、何らかの原因により肺での血流が悪くなった場合には全身への血流も悪くなってしまうため、心臓は高い圧力をかけて肺に血液を送り出そうとする。肺高血圧症とは、こうして心臓から肺へ血液を送る肺動脈が高血圧となっている状態で、肺の小動脈で血液が流れにくくなっている(肺血管抵抗が高い)ことが疾患の本体であり、平均肺動脈圧25mmHg以上と定義されている。肺高血圧症の初期段階では心臓に負担がかかりつつも心拍出量が保たれて自覚症状はないが、悪化して自覚症状が出始めた時点では、心拍出量が低下し心臓の機能はかなり弱まっている(図1)。代表的な症状は、全身への血流が悪くなり酸素が行き届かなくなることによる「労作時の息切れ、呼吸困難」であり、さらには「易疲労感、動悸、胸痛、失神、肺出血、喀血」などが現れることもある。また、肺高血圧症は肺循環を担う心臓の右心系に負担がかかるため、進行に伴い右心不全が現れるなど、予後が不良の危険な疾患である。若年者に比較的多く、男女比でみると女性に多いという特徴もある。

肺高血圧症は、高肺血管抵抗を生じさせる機序によって分類されており、代表的なものは「肺動脈性肺高血圧症(PAH)」、「慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)」、「肺疾患に伴う肺高血圧症」の3つである。推定発症率は、2012年に海外で発表された研究では、この3つのタイプを合計すると人口10万人あたり76人と報告されている。この数値は暫定的であり正確な患者数の把握は今後の課題であるが、研究の進歩とともに診断がつく患者数が増加し、PAHでは20年前と比較して患者数が約100倍になっており、従来考えられていたほど稀な疾患ではないといえる。

図2 図1 肺高血圧症の経過

PAH

次に、肺高血圧症の中心であるPAHについて解説する。PAHは、肺の血管が枝分かれして毛細血管に至る手前の0.1~0.04mm前後の太さの肺小動脈において、血管内皮細胞の変性・増殖や、遊走してきた平滑筋細胞の変性・増殖などにより、さまざまな細胞が何層にも重なって血管内腔が狭くなることで血流が悪くなり、心臓に負荷がかかる疾患である。

PAHが進行すると、「細胞増殖」に続いて肺血管の「萎縮」が起こってしまう(図2)。「細胞増殖」の段階であれば細胞の増殖を止めるなどの治療方法があるが、「萎縮」の段階まで進行してしまうと治療は厳しいのが実態であり、「細胞増殖」の段階で診断して治療することが大変重要である。

図2 図2 PAHの経過

肺小動脈が狭窄を起こすメカニズム

肺小動脈が狭窄を起こすメカニズムの詳細は解明されていないが、最近の研究で、血管を拡張・収縮させるシステムにアンバランスが生じていることが明らかになってきた。このシステムは通常、血管内皮細胞から分泌される物質によってバランスが保たれているが、PAH患者では、「血管の細胞増殖および血管収縮を亢進させるエンドセリンの増加」や、「血管の細胞増殖抑制および血管拡張作用をもつ一酸化窒素・プロスタグランジンI2の減少」が認められ、血管の収縮と血管細胞の異常な増殖が起きていることが解明されている。PAHの治療では、これらの物質を標的とした薬剤の開発が進み、予後の改善が報告されている。

PAHの原因となる疾患

前述のような肺小動脈の狭窄は、膠原病、先天性心疾患、肝硬変、HIV感染症などの疾患が原因となる。HIV感染者の0.5%がPAHを合併すると報告されており、肝硬変ではその1~2%がPAHを合併すると考えられている。しかし、PAHの約50%は原因が不明であり、このタイプは「特発性PAH(IPAH)」と呼ばれている。遺伝によってPAHを発症する患者も少数ながら存在する。

CTEPH、肺疾患に伴う肺高血圧症

CTEPHは、器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞を起こした「慢性肺血栓塞栓症」に、肺高血圧が合併した疾患である。抗凝固療法も行われるが、手術的に摘除可能な患者では、肺血栓内膜摘除術により物理的に血栓の除去を行う治療法が進展している。

また、「肺疾患に伴う肺高血圧症」は、肺気腫、肺線維症、気腫合併肺線維症などの肺疾患が原因となり肺高血圧を引き起こしている。このため、血管に対する治療とともに呼吸器の治療を併用した試みが行われている。

今後の課題―早期発見・早期治療へ―

現在、肺高血圧症の研究の進歩とともに肺高血圧症と早期に診断される患者が増え、多くの患者が早期に治療を開始できるようになりつつある。最後に武田氏は、「今後もこの傾向を進め、より多くの患者を早期発見・早期治療へとつなげることが重要であり、このことが患者の生存率の改善に寄与するだろう」と述べ、講演を締めくくった。

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