受験資格

Exam eligibility

症例報告書

「症例報告書」作成の目的

心不全療養指導士は,心不全の療養指導に必要な基本的知識を有し,それを活用し実践している者に与えられる資格である.心不全療養指導士の受験資格「心不全療養指導に従事していること」を証明する材料として,療養指導の実務経験を「症例報告書」に5例記載し提出する.本ガイドブックの内容を理解した上で,文書としてまとめていく一連のプロセスを実施することにより、質の高い心不全療養指導が実践できているかを判断する.

症例テーマと記載基準

心不全療養指導士は,病態や治療状況,心不全進展ステージなどの身体的な側面のみならず病態,生活歴など多様な側面の背景を踏まえて,個別性のある心不全療養指導を実践することが求められる.療養指導では,個々の症例をどのように捉えて意図的に介入できるかが重要であり,症例報告書の作成には,実践した療養指導の経過を他者にもわかるように表現する能力が求められる.
テーマ毎の記載基準に沿って,個別的な療養指導の実際を症例報告書のフォーマットに記載していく.療養指導に偏りがなく,多面的な療養指導を行っている状況を確認するために,テーマを所定の数以上選択し症例報告書を作成する.

記載項目

症例報告書に記載する項目は下記の通りです。

患者背景:身体的な側面以外の,心理・社会的側面に関する情報を整理する

社会資源の活用状況 ・医療助成/助成の種類,介護保険/介護サービス
・在宅療養・看取りを希望している場合などは社会資源の調整状況 等
家族構成・家族の状態 ・家族内の関係性,同居状態,キーパーソン,介助者の状況
・代理意思決定者,家族の悲嘆状況 等
認知機能・心理的問題 ・客観的スケールを用いた評価の結果(MMSE,HDS-R,PHQ-2など)
・スケールの評価結果がない場合:判断した根拠を示す状況
例)5分前に伝えたことを忘れてしまうなどの短期記憶障害あり
・療養行動にどの程度影響を及ぼしているのか,自己で意思決定できる状態であるのか,他者の援助がどの程度必要になるのか 等
その他,特記事項 ・性格特性:療養行動や意思決定に影響を与える特性
・生活環境:生活状況の中で心負荷につながる状況はないか,何階建か,階段昇降が困難な状況の有無 等

◆心不全の病態:心機能を中心とした,身体的な側面の情報を整理する

心不全の原因疾患 ・虚血性心疾患,心筋症,心筋炎,心毒性心筋障害,浸潤性疾患,高血圧,弁膜症,先天性心疾患,不整脈,肺高血圧症 等
※「第5章心不全の診断,成因,検査 3心臓の基礎疾患の特徴」に挙げられている疾患と対応させて記載
※ステージAでは,「なし」と記載(心不全に進展する可能性のあるリスク因子は、既往歴に記載する)
※ステージBでは,心不全の原因疾患となる可能性のある器質的心疾患を記載
心不全の発症・
進展に影響する併存疾患
・糖尿病,慢性腎臓病,慢性閉塞性肺疾患,貧血,無呼吸症候群 等
※「第6章心不全の治療 3併存疾患の治療」に挙げられている疾患と対応させて記載
その他の既往歴 ・心不全の疾病管理等に関わる疾患,治療状況
例)リウマチ性疾患,脳血管障害, 乳がんで化学療法中 等
現病歴
(心不全の原因疾患
および併存疾患の症状・
診断・治療の経過)
・心不全の原因疾患および発症・進展に影響する併存疾患に関わる症状・診断・治療の経過
・健康診断の受診状況(特に,ステージA/B)
・心不全症状の有無,具体的な症状,増悪傾向の有無
※後述の「心不全進展ステージ」の根拠となる内容を記載
※ステージA/Bでは,「心不全症状が出現していない」ことがわかるように記載
・心不全の増悪要因,増悪の頻度
・具体的な治療内容,セルフケア・療養行動など,疾病管理の経過
・心不全の転帰(悪化・緩解/再入院期間の変化)
※入院加療をした症例では入院後の経過も含めて記載
・併存疾患や既往歴の治療状況や身体機能への影響も含めて記載
心不全進展ステージ 現病歴と対応させて,心不全進展ステージを判断し記載
※選択した「症例テーマ」と一致していることを確認
心機能, 
その他の検査・身体所見

・心不全の原因疾患・併存疾患の重症度や心不全評価,疾病管理状況,問題点の抽出につながるデータの記載
・必須:左室駆出率(%), BNP/NT-proBNP(pg/mL),NYHA(ステージA/Bは「該当なし」を選択)
※1例以上は,左室駆出率,BNP/NT-proBNPのデータ記載があることが望ましい
・その他:胸部X線検査,心電図,心エコー,カテーテル検査,血液検査,BMI,バイタルサイン等/単位まで記載する)
 例)心不全の原因疾患や心不全のコントロール状況がわかるように記載
心電図:(波形・不整脈の有無)心房細動 (心拍数)安静時110bpm
血圧値:高血圧のコントロール状況など
心エコー:心腔・壁運動・左室性状・弁膜症・拡張能の評価
カテーテル検査:PAWP・CO,冠動脈閉塞の部位とその程度
例)心不全の発症・進展に影響する併存疾患や危険因子のコントロール状況がわかるように記載
糖尿病(HbA1c),慢性腎臓病(eGFR),慢性閉塞性肺疾患(1秒率,酸素飽和度),貧血(ヘモグロビン値),無呼吸症候群(無呼吸低呼吸指数),脂質異常症(LDL-C/ HDL-C),肥満(BMI) 等

◆心不全治療:心疾患・心不全(予防も含む)に対して,最善の治療が提供されているか

薬物療法 ・心不全治療薬
・心不全の発症・進展に影響する併存疾患・リスク因子に対する治療薬
※一般名にて記載する:商品名は不可(*1参照)
非薬物療法 ・心臓電気デバイスの有無・種類,手術・カテーテル治療の有無(有れば具体的に記載),酸素・呼吸補助療法の有無・種類

◆セルフケアの状況:心不全の指導状況と,セルフケア能力の査定(サポート状況)・疾病管理の状況

心不全に関する知識 ・心不全や生活習慣病などの指導歴(何をどこまで指導されたのか)
・指導された内容の理解度(何をどこまで知っているのか)
・病状の理解度・受け止めに関する,患者・家族の言動
セルフモニタリング・受診行動 ・セルフモニタリングの必要性の理解度
・セルフモニタリングの実施状況,家族・周囲のサポート状況
・心不全手帳の活用状況
・定期受診の状況,中断歴がある患者はその理由
服薬管理 ・内服薬の管理方法,飲み忘れの有無,服薬アドヒアランスを妨げている要因,内服管理で工夫している点,家族・周囲のサポート状況 等
 例)「自己管理不可」の場合,どのような状況か具体的に記載する
「認知機能の低下があり,内服したことを忘れてしまうため自己管理は難しいが,家族が準備し促すことで定期的に内服できている」「脳梗塞後右麻痺があり,薬の飲みこぼしがみられるようになり,自己管理は難しい状態にある」
栄養・水分管理 ・塩分管理の必要性の理解,塩分・水分の管理状況
・バランスの良い食事の重要性の理解
・食事は誰が作り,誰と食べるのか
・外食の頻度,アルコール摂取の状況
・栄養指導を受けた経験とその反応
※「塩分が過剰」なのであれば,その状況
 例)「間食にスナック菓子(1袋3g)を毎日摂取している」
身体活動 ・生活活動,運動の状況
・低心機能により,日常生活に影響がある場合は,その程度と対処
喫煙状況 ・喫煙状況
・禁煙の指導歴・治療歴

※他の職種が介入している療養指導も、連携・協働している視点で記載してください

査読判定基準