増刊号 (2009.7.2)
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「臓器の移植に関する法律」改正に対する声明
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今国会、衆議院において、「臓器の移植に関する法律」の改正案、A案が採択されたことは周知の如くですが、この衆議院のご英断に日本循環器学会は深い敬意を表しますとともに、ご尽力された全ての関係者に心から感謝申し上げる次第です。
現在の「臓器の移植に関する法律」が1997年に施行されて以来、崇高な善意に基づいた81件の脳死後臓器提供が行われ、重い心臓病患者64名が心臓移植術を受け、健康的な生活を取り戻すことができました。しかし、心臓移植でしか助かる治療法のない重症心臓病患者さんが年間500から600人もおられるにも拘わらず、現行の法律下では心臓移植は最も多い年でも10例程度しか行えないことがむしろ明らかとなりました。心臓移植の適応が認められた患者さんで死亡された方のうち、実に94%が心臓移植を待ち望みながら亡くなられております。また、心臓移植を受けた患者さんの約60%が、小児や成人を問わず、やむなく海外での移植、渡航移植に頼られています。この海外心臓移植の道が、『渡航移植を認めない』とするWHO/国際移植学会のガイドラインにより、いよいよ閉ざされる状況になってきました。
心臓移植は全世界で広く認められた重症心不全患者に対する究極の標準的な治療法であります。隣人、アジアの中でも韓国や台湾などを中心に日本での10年に相当する多数の患者さんが一年間でこの恩恵を受けています。また脳死に基づく移植医療は世界共通の標準的な考え方であり、医学的見地からも医療的見地からも十分に受け入れ可能な、WHOからも勧められている社会的な考え方です。今回の改正案、A案はドナー本人の尊い生前の意思、リビング・ウィルを最大限活かすことのできる医療システムの構築を可能とするものであります。ご本人のリビング・ウィルが最愛の家族にしっかり伝わっていれば臓器提供が可能となり、また年齢を問わず臓器提供が可能となることは海外移植にのみ頼っていた幼児・小児への心臓移植の道を開くことを意味します。
しかし、これらは既に長い間日本を除く世界のほとんどの国で培われ、育まれてきた国際ルールでしかありません。国際ルールに準拠したこの法案制定後には、ヨーロッパ諸国で行われていますように、隣人アジアの諸国と移植医療を共有することも可能となり、ともにドナーのリビング・ウィルを尊重できる基盤ができるものと確信します。また、脳死を受け入れられない遺族にも十分考え尽くされた改正案であり、受け入れられない移植医療をきちんと拒否できる配慮も行き届いていると評価しています。
わが国で心臓移植を受けた患者さんの予後は素晴らしいものであります。諸外国の10年生存率50%程度の成績に較べ、90%と格段に高く、その97%の患者さんが入院治療を必要とせず、66%の患者さんが職場で活躍しています。一方、心臓移植を受けられなかった患者さんの予後は辛いものです。3年の生存率が最先端の高度医療を駆使しても40%前後に留まり、その上、生存者といえども40%の患者さんがベッド上安静を強いられている現状にあります。
現行の臓器移植法の枠組みの中では、ドナーの尊いリビング・ウィルが最大限に尊重されていない問題点がたびたび指摘されてきました。意思表示カードには臓器提供の強い意思が表示されているにもかかわらず、全国400施設足らずの臓器提供施設にて最後を迎えないかぎり、臓器提供は叶えられないという社会的システムエラーの問題であります。改正案A案の実施により、多くのドナーの尊い意思を最大限活かすことのできる医療システムの構築が可能になると考えます。
長く据え置かれた現行法改正は、重症の心臓病に悩む患者さんやそのご家族にとって待ち焦がれた唯一の救い、望みでありました。その中で、衆議院でのA案採択は国内移植を希望する患者さんとそのご家族に一筋の光明を与え、その決断は高く評価されています。しかし、この法案が日の目を見るには参議院における採択が不可欠であります。参議院におかれましても、勇気ある決断が発揮されればわが国にも漸くグローバルな移植医療の水準化が見えてきたと評価いたします。
このような循環器医療、循環器医学の見地から、日本循環器学会は参議院におかれましても「日本人による日本人の移植」を実現する臓器移植法の改正、A案の採決を強く希望する次第です。
日本循環器学会 理事長 小川 聡
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