喫煙は喫煙者と周囲の非喫煙者にさまざまな喫煙関連疾患を引き起こすが、ニコチン依存と心理的依存を生じて強固な習慣性を持つにいたることが多い。近年、ニコチン依存に対してはニコチン代替療法が、心理的依存に対しては行動療法が利用されるようになり効果を挙げている。こうした個人対象の禁煙支援に加えて医療機関における環境的な因子の強化は喫煙者の禁煙動機や非喫煙者の喫煙防止に有効であり、循環器専門医師として積極的に取り組むべき課題である。

目次
    1. はじめに
    2. 喫煙の健康影響
      (1) 能動喫煙と喫煙関連疾患
      (2) 受動喫煙による健康影響
      (3) 禁煙による疾患リスクの低下
    3. タバコの依存性
      (1) ニコチン依存
      (2) 心理的依存
    4. 禁煙支援の最近の動向
      (1) 臨床現場における短時間介入
      (2) ニコチン代替療法剤の利用
      (3) 再喫煙防止の重要視と長期フォロー
      (4) セルフヘルプアプローチの重要視
    5. 日本循環器学会禁煙宣言
    6. おわりに
        * 参考文献

                             
1. はじめに
日本における成人喫煙率は年々減少し平成12年においては男性47.4%であったが、20代から30代女性および未成年の喫煙は増加し、中学3年生での男子生徒の喫煙率は8〜12%、高校男子生徒の喫煙は26〜40%に達する1)。ニコチン依存症は確立された疾患として捉えられるべきものであり、喫煙は、ニコチン依存をもとに心理的依存を生じた結果、強固な習慣となり禁煙が困難となる。喫煙関連疾患による死亡率の増加を超過死亡と呼ぶが,1995年には全世界で312万5千人が,日本国内では9万人5000人が超過死亡しているといわれる。これは死亡者全体の12%にものぼる数字で、この20年で倍増した2)。
喫煙者では非喫煙者に比べて平均寿命が短く壮年期死亡が多いことは従来から指摘されてきたが、喫煙者の半数が喫煙に起因する死因で死亡することや、喫煙者の40%は69歳までに死亡することから、壮年期の死亡の1/3から1/2は喫煙が関連しているといわれ喫煙が多くの早死の原因となっている2)。中でも喫煙は循環器疾患の大きなリスクファクターであることは疫学的研究で明らかであり、日本で1980年から実施された大規模循環器疾患追跡調査(14年間)のNIPPON DATAにおいても観察当初年齢が30〜60歳の喫煙者の死亡の相対危険度は2倍以上となっている3)。また受動喫煙の有害性も近年、広く知られるようになってきた。しかしながら喫煙と喫煙関連疾患の関連についての知識を問う調査では肺がんと妊娠以外のリスクの増加を知っているものの割合は低い。こうしたことから、禁煙希望者のみならず禁煙を希望しない喫煙者や非喫煙者に対しても、正しい知識と喫煙習慣からの離脱のための広範囲の支援を提供するとともに、喫煙しにくい環境整備による禁煙への動機付けは今後ますます重要となる。

2. 喫煙の健康影響
(1)能動喫煙と喫煙関連疾患

タバコの葉を燃焼させて生じるタバコ煙にはニコチンに加え、一酸化炭素をはじめとする4000種類以上の物質を含むが、これらはタバコの葉からのほか、タバコ製品を作る際に加えられる様々な化学添加物の揮発物質や熱分解産物にも起因する4)。
タバコ煙は気道から肺の表面にいたる広範囲に沈着する微細な粒子相と、ガス相からなる。タバコの煙に含まれる成分のうち,有害物質として認定されているものは200種類に上り,そのうち60種類以上が発がん物質である。その中には猛毒のシアン化水素や,ダイオキシンなども含まれるが,なかでも健康有害性が大きいのがタール,ニコチンと一酸化炭素(CO),そして各種刺激物質である。なおニコチンや水分を除去した粒子相をタールと総称するが、タバコ煙の発がん性の大部分は、発がん物質を含む気体となった粒子相による。気相には、タバコ煙の顕著な臭いのもととなっている揮発性物質のほか、一酸化炭素、気道刺激物質を含む5)6)。
近年、煙の吸着を目的としてさまざまなフィルターが開発され、「低タールタバコ」(いわゆる「軽いタバコ」)が流通するようになってきた。「低タールタバコ」はフィルターチップの周囲に沿ってうがたれた多数の小孔から空気が流入し,吸入する煙を希釈するつくりとなっていて主流煙ではタールやニコチンなどの濃度が減少する。しかしながらニコチ摂取における自動調節能の存在、フィルターの穴を指や口唇で塞ぐなどの行為に煙の成分の測定方法の問題も加わり、喫煙者が体内に吸収する有害物質量は低タール低ニコチンタバコにおいても表示ほどは減少していないことに留意すべきである4)7)8)。
タバコの葉を燃やすすべての利用形態では有毒で発がん性のある煙を生じる。喫煙の結果生じる病気の発生頻度の差は、喫煙頻度と吸入する深さの違いに起因する。パイプタバコや葉巻き使用者は口腔内粘膜から必要なニコチンを吸収して肺に煙を吸入しない傾向があるため、有毒物質や発がん物質の肺への影響(喫煙関連疾患の増加)が少なくなっている。紙巻タバコで使用されるタバコでは口腔内からのニコチンの吸収は少なく、喫煙者がニコチン依存を満足するに足るニコチンを吸収するにはより大きな表面面積をもつ肺まで煙を吸い込むことが必要となる。上気道がんのリスクは、紙巻タバコと葉巻喫煙者では同等であるが、葉巻きしか吸わない喫煙者では肺がんや慢性閉塞性肺疾患のリスクが低いのはこうした理由によると考えられている。しかしながら紙巻タバコからパイプや葉巻きに切り換えた喫煙者では、紙巻タバコ同様に煙を深く吸入する傾向にあり、リスクは増大する。そしてどのようなタバコの使用形態であっても、タバコの煙への暴露の頻度や吸入が同等であれば、その結果生じる疾患も同様である。
タバコ煙にふくまれるニコチンは副腎皮質を刺激してカテコラミンを遊離し,交感神経系を刺激して末梢血管の収縮と血圧上昇,心拍増加をきたす9)10)。また強力な血管収縮および気管支収縮作用を有するトロンボキサンA2の遊離作用も有する11)。
タバコ主流煙には一酸化炭素が4%(重量%)程度含まれていて血液中のヘモグロビンと強固に結合して(酸素の約210倍〜250倍)慢性の酸素欠乏状態を作り出す12)。ヘモグロビンと結合した一酸化炭素はコレステロールの変性を促進し、血管内皮を障害するとともにHDLコレステロールを減少させ,動脈硬化を促進する12)13)14)15)。これが一酸化炭素による酸素欠乏や血管異常収縮とも相まって循環器疾患のリスクを増大させる。
喫煙習慣別の年齢調整心疾患死亡率
図1

循環器疾患大規模発症要因調査であるFramingham Studyでは、喫煙1箱あたりの虚血性心疾患に対しての相対危険度は2〜3倍とされ16)、Albany Study など5つの主要疫学調査を統合したPooling Project では一日1箱喫煙による虚血性心疾患の相対危険度は1.7-2.4倍と報告されている17)。1980年から14年間、1万人の追跡調査をおこなったNIPPON DATAにおいても、一日喫煙量が多いほど心疾患死亡率が多く、男性においては一日20本以内の喫煙者での心疾患死亡率の相対危険度は4.2倍、20本を越える場合には7.4倍、毎日タバコ1箱喫煙の場合の虚血性心疾患の罹患と死亡に対する相対危険度は1.7〜1.9倍と推定された(図1)3)。
一日の喫煙本数別にみた脳卒中の相対危険度予測
図2

一方、脳卒中の発症は男女とも一日喫煙量が多いほど増加する(図2)16)18)など、脳卒中死亡率と心疾患死亡率双方に喫煙が大きく影響していることが示された。この傾向は喫煙開始年齢が早いほど上昇するため,若年で喫煙を始めた場合,壮年期になってからの健康への影響は深刻となることが予測される。
肺がんと喫煙の関連については古くから多くの研究があり、1964年にはこれらの研究の結論として米国公衆衛生総督報告が出された19)。肺がん、食道がん、膵臓がん、口腔がん、中咽頭がん、下咽頭がん、喉頭がん、腎盂尿管がん、膀胱がんは相対危険度が2以上で喫煙との関連が明確に認められる。腎細胞がん、胃がん、肝臓がん、骨髄性白血病は相対危険度は2以下であるが弱い関連が認められる。口唇がん、副鼻腔がん、上咽頭がんは、喫煙との関連が強く示唆されるが発生数がまれであるために結論することができない。胆嚢胆管がん、唾液腺がん、卵巣がん、リンパ腫、脳腫瘍、甲状腺がん、副腎がん、前立腺がんは喫煙との関連が薄いと考えられる。子宮頸がん、大腸がん、女性の乳がんに関しては、喫煙との関連は結論がでていない。
子宮内膜がんに関しては、喫煙者での発症が少ないことは多くの研究で一致しているが、喫煙者では女性ホルモン活性が低いことや閉経年齢が早まることが関係していると考えられている。しかしながら喫煙者に発症した子宮内膜がんは悪性度が高いことも指摘されている4)。
喫煙と2型糖尿病発症リスク コホート研究
図3
喫煙と2型糖尿病発症リスク コホート研究

 喫煙による発がんメカニズムとしては、タバコ煙に含まれるベンゾピレンなどの発がん物質がDNAと共有結合してDNA付加体を形成してDNA複製の際に遺伝子変異を引き起こすことが蓄積してゆくと考えられているが、タバコ煙の発がん物質の分解にかかわる酵素活性の遺伝子的要因も指摘され、肺がんなどを中心に今後遺伝的感受性に関する研究がすすめられる見通しである。
呼吸器疾患としてはがんのほか、慢性閉塞性肺疾患、気管支喘息、自然気胸などの疾患においても、喫煙はリスクを高めることがわかっている20) 21) 22)。10-15%の喫煙者にタバコ煙感受性があり、慢性閉塞性肺疾患に進展してゆくといわれるが、これには肺胞プロテアーゼとの関連が示唆されている23)。自然気胸は一日喫煙本数との関連が認められ、自然気胸の80%は喫煙が関連したものである22)。
消化性潰瘍の治癒遷延と再発率の増加24)、インスリン非依存型糖尿病の発症(図3)と糖尿病性腎症の発症や悪化25)26)、骨粗しょう症、ホルモン異常とくに女性における更年期の早期発来なども喫煙と関連することも示唆されている27)28)。
喫煙者に少ない疾患としてパーキンソン病と潰瘍性大腸炎が上げられる。パーキンソン病ではニコチンの投与によって症状が短期間改善するが、ニコチンによるドパミン産生能の促進によると考えられている。20歳前後での喫煙によるリスクの増加を指摘する報告もあり、因果関係ははっきりしない。潰瘍性大腸炎においては一日喫煙本数が多いほど発症リスクが低下する。他の治療法と併用したニコチンパッチが有効との報告もあるがその作用メカニズムに関しては不明な点も多い。アルツハイマー病の発症は喫煙者で少ないとの報告もあったが,近年になってこのデータの信憑性が疑われている。痴呆による死亡は喫煙者に多い4)。


(2)受動喫煙による健康影響
 タバコの煙で周囲の人に流涙,眼のかゆみ,鼻汁,席,頭痛などがひきおこされるのは主流煙がpH6前後であるのに比べ副流煙はアルカリ性で粘膜刺激性が高いことによる。
 肺がん、副鼻腔がん、子宮頸がんでは、周囲の喫煙者の喫煙本数が増加するほど、受動喫煙による発症リスクが増大する。受動喫煙の虚血性心疾患への影響は、肺がんよりもさらに明確で、環境タバコ煙(ETS)暴露によって非喫煙者の労作時心筋虚血状態は悪化する。受動喫煙による健康影響をまとめた報告では、非喫煙者の心筋梗塞の死亡率が1.3倍に高まり、受動喫煙をうける人のうち1〜3%が受動喫煙が原因となった心筋梗塞で死亡することが示された29)。これを非喫煙者10万人あたりの受動喫煙による死亡確率として調べると10万人あたりの受動喫煙による死亡確率は1000人から3000人に上ることとなり、自動車の排ガスなどの死亡確率とは比べ物にならない健康被害を及ぼしていることが示された。タバコを吸わない人の心筋梗塞の死亡のうち,20%は周囲の人のタバコの煙が原因と言われる30)。またOtsukaらの研究では、健常非喫煙者において30分の受動喫煙が血管内皮機能に影響して冠血流予備能を低下させることを示した31)。
こうした結果に基づき、わが国の循環器疾患ガイドラインにおいても禁煙と同時に受動喫煙の回避があげられているが、2001年の虚血性心疾患の一時予防ガイドラインにおいても「完全な禁煙」と受動喫煙を回避すべきであると提唱された32)。心筋梗塞二次予防ガイドラインでも禁煙に加えて受動喫煙をさけることと、ニコチンガムやニコチンパッチによるニコチン禁断症状の緩和が盛り込まれている。なお米国におけるAHAの2002年のガイドラインでも完全な禁煙と環境タバコ煙の完全回避が目標として挙げられている33)。
妊娠時の喫煙では,一酸化炭素による低酸素血症と胎盤を通過する有害性分により,早産や周産期死亡の比率が1.2〜1.4倍に増加する。また妊婦本人の喫煙だけではなく,家族や周囲の喫煙によっても低体重児など,胎児の発育遅延が1.2倍に増加する。妊娠初期までに禁煙すればこのリスクは改善する34)35) 36)。
喫煙と乳幼児突然死症候群との関係
図4 喫煙と乳幼児突然死症候群との関係

 乳幼児突然死症候群は生後1年以内の乳幼児の重要な死因であるが、妊娠中や出生後の母親や周囲の喫煙本数が増加するほどリスクが増大すると考えられている(図4)37)。 また、三歳児の喘息様気管支炎は,家庭内喫煙がない場合に比べ,20本以上喫煙する家族が同居する場合は2倍に,母親が喫煙する場合には3倍に増加する38)。
 こうしたことから、喫煙者の禁煙のみならず社会全体としての禁煙化による受動喫煙の防止の重要性が強く示唆されるものであり、この分野において医療関係者の果たすべき役割は大きい。ちなみに米国においては1992年からJoint Commission on Accreditation of Healthcare Organizations (JCAHO) による基準に従って病院建物内は完全禁煙とすることが示されたが、1998年の調査ではランダムに選出された病院の96%において基準をクリアしたことが報告されている39)。


(3)禁煙による疾患リスクの低下
禁煙による虚血性心疾患罹患率の低下は禁煙後比較的早期にあらわれ40)、大規模循環器疾患疫学調査であるFramingham Studyでは禁煙後1年で冠動脈心疾患の罹患率は大幅に低下することが示されている41)。また、急性心筋梗塞を起こしたあとの再発死亡率においても、禁煙したものでは心筋梗塞再発率や死亡率は低下する。888人の心筋梗塞をおこした男性を3年間追跡した調査では、1日15本以上喫煙を続けた患者に比べ禁煙した患者では心筋梗塞の再発率は半分程度となり、死亡率も低下した42)。日本でも同様に、90人の心筋梗塞を起こした男性患者について喫煙を続けたものでは心疾患再発が30%近かったのにくらべ、禁煙により再発は3分の1に低下し、心臓病死も2分の1以下に減少した43)。冠動脈バイパス術後415名15年間の追跡調査では、喫煙者は禁煙した者の2.5倍の心筋梗塞リスクであった。なお禁煙したものと、非喫煙者のリスクには差が認められなかった44)。
以上より、循環器疾患においては禁煙による疾患リスクの低下は明らかであるが、英国の40歳以上の喫煙公務員1445人に禁煙アドバイスを提供(介入)した研究(無作為比較対照試験)では、10年後には喫煙状況は介入群において1日喫煙本数は平均7.6本減少し、虚血性心疾患の死亡は18%、肺がんの死亡は13%減少したことが報告されている45)。
なお1990年以降、米国や英国では,がんの罹患率と死亡率が減少していることが報告されているがこれは米国や英国での喫煙率の低下によるところが大きいことが指摘されている47)48)。 健康面以外でも、火災の減少や健康保険費用の減少、受動喫煙の軽減など、禁煙のもたらすメリットは大きい48) 49)50)。


3. タバコの依存性
(1)ニコチン依存

ニコチンには依存性があり、タバコ使用時に依存を生じる主たる原因となっている。ニコチンは中枢神経系のうちドーパミンを介する脳内報酬系に作用するとされ、とくにnoradrenaline, serotonin, dopamine, acetylcholine, gamma-amino-butyric acid and glutamateなど脳内神経伝達物質の分泌がニコチン摂取で増加することや、monoamine oxidase Bの活性に影響を与えることが示唆されている51)。
1980年に米国精神医学会によって、ニコチン依存は精神疾患の診断分類としてとりあげられた。ニコチンは、口腔内粘膜や皮膚からも吸収される極めて吸収の良い物質で,煙を吸い込んで数秒以内に脳血管障壁を通過して脳細胞に達する。定期的にニコチン摂取を繰り返すと,ある時期以降には脳細胞は喫煙してニコチンを吸収することでようやく以前と同レベルの活動を維持するようになる。これが「ニコチン中毒」「ニコチン依存」と呼ばれている状態である。
ニコチンは吸収が速く,体内から消失するのも速いため,常習喫煙者では喫煙後30分程度でニコチン切れ症状を生じ「次の1本」の願望を生じるようになる。ニコチン依存を有する喫煙者はニコチンの血中濃度をタバコを吸う頻度と深さで調節し、最適なニコチン血中濃度による精神的効果を得るとともに、ニコチン離脱症状を避けている。
ニコチン依存は、(1)周りからの影響をうけて喫煙を開始する(2)ニコチンのドパミン系への直接影響によって喫煙を続ける(3)離脱症状軽減のために喫煙を続けざるを得ないとの3段階を経て喫煙開始後数年で形成されると考えられてきた。成人では喫煙後5年から10年でこうした状況が形成され、その結果喫煙者はほぼ毎日喫煙するようになる。未成年に対しての調査では喫煙開始後急激にニコチン依存が形成される場合が多いことが明らかになり、必ずしもこの3段階を順番に経るともいえないと考えられる53)54)。高橋のデータでも、15歳以下の禁煙外来受診者のうちおよそ半数が喫煙開始後2ヶ月以内に「禁煙が困難である」ことを自覚していた。
Fagerstrom Tolerance Questionnaire(Heatherton TF, Br J Addict, 1991)
表1 Fagerstrom Tolerance Questionnaire(Heatherton TF, Br J Addict, 1991)

ニコチン依存の程度は喫煙者によって異なる。ニコチン依存の程度判定にはFagerstrom Tolerance Questionnaireを利用した「ニコチン依存度質問表」を使用し、7点以上を高度依存、4-6点を中程度依存、3点以下を軽度依存とするのが一般的である(表1)54)。診療現場では「起床後何分でタバコを吸いますか」という簡単な質問でニコチン依存の程度を推定することが広く行われている。
(2)心理的依存 
いつも喫煙していた場面、他人の喫煙シーン、困難に遭遇したときなどに喫煙要求が高まる状態をさすもので、喫煙で良いことがあった体験の積み重ねが、心理的な条件反射を強化する。経験や記憶によるところが大きく、喫煙年数が長いほど強固である。この心理的依存によって一旦禁煙したものの、さまざまなストレス場面において容易に喫煙が再開されることが多く観察され、心理的依存への対処には、さまざまな行動変容理論の応用が必要となる。

4. 禁煙支援の最近の動向

プライマリケア医師のための禁煙指導ガイドライン
表2 プライマリケア医師のための禁煙指導ガイドライン

1996年、ニコチン依存や禁煙指導に関する数多くの文献をレビューしてAHCPR(米国保健医療政策研究局Agency for Health Care Policy and Research)による禁煙臨床治療ガイドラインが作成された55)。1998年にはコクランライブラリとAHCPRのレビューに基づいて保健医療者対象に英国での禁煙指導ガイドラインが56)さらに2000年にはAHRQ禁煙指導ガイドライン(米国厚生省(HHS)の下部組織、Agency for Healthcare Research and Quality)が作成された。これは6,000編を超える論文に基づく50以上のメタアナリシスを実施したエビデンスに基づいて作成したものである57)(2000年 A Clinical Practice Guidline for Treating Tobacco Use and Dependence)。
これらのガイドラインでは、さまざまな保健医療政策の提言のほか、臨床現場でプライマリケア医が禁煙支援する際に取るべき手順が推奨されている。まず喫煙している患者をもれおちなく把握して(Ask)禁煙を希望するしないにかかわらず、全員に禁煙の必要性をアドバイスする(Advise)。ついで禁煙を希望するかどうかを尋ね(Assess)禁煙希望者に対して禁煙開始の支援をおこなう(Assist)。これはニコチン離脱症状への対処が主となり、ニコチン代替療法剤の導入も含まれる。最後にフォローアップの計画を立てる(Arrange)(表2)。これらは医療現場での禁煙支援の開始に有効な手順を示している。 なお、現在の禁煙指導の動向として、以下の方向が示される。

1 臨床現場における短時間介入
一般の臨床現場ですべての喫煙者に短時間の禁煙の働きかけを繰り返すことで禁煙動機を高める役割がある。
2 ニコチン代替療法剤の利用
禁煙開始にニコチン代替療法剤を利用することは世界的に広くおこなわれているが、日本においても、ニコチンガムは1996年から、ニコチンパッチは1999年から使用が認可され禁煙の開始に有効性が高い。
3 再喫煙防止の重要視と長期フォロー
再喫煙によって喫煙習慣に戻ることは多くみられる。禁煙を開始したあと禁煙継続をフォローする手法としては、医療機関でのフォローのほか、インターネットを利用した長期禁煙支援プログラムが普及し高い成果をあげるようになってきた。医師がこうしたプログラムを薦めることによって、プログラムに参加を希望する喫煙者の割合は倍増することからも、長期フォローを視野にいれての医師による禁煙支援プログラムの紹介も重要である。
4 セルフヘルプアプローチの重視
 医療者の関与の少ないセルフヘルプアプローチのうちパンフレット配布や郵送法などでは成功率は高くないが、多人数が簡便に利用でき、費用効果比が大きい。
以上から、一般の外来診療の場では医療者による簡単な禁煙のすすめをすべての喫煙者に実施し、そのうち禁煙を希望する者にはニコチン代替療法を利用した禁煙開始支援とIT利用可能者へのインターネットによる長期禁煙継続支援を紹介する。禁煙を希望しないものにもセルフヘルプ教材(パンフレットなど)を手渡し喫煙の危険性について強く警告して禁煙を促すという方式が有効性が高いと考えられる。また、日本循環器学会の禁煙宣言ではすべての循環器科に禁煙外来を設置することを目標としているが、第67回学術集会において、禁煙外来の実際について禁煙推進セミナーがもたれたので参照されたい。

(1) 臨床現場における短時間介入
喫煙者の過半数は一年に1回以上は医療機関を訪れることから、一般診療の場で全ての喫煙者に禁煙を短時間でも勧めることの重要性が認識されている。禁煙支援専門外来での時間をかけた禁煙支援はすでに禁煙動機を有する喫煙者を対象に実施されることが多いが、一般診療の場では禁煙動機が希薄な喫煙者が多く、短時間の働きかけを繰り返すことで禁煙動機を高める役割がある。
前述のAHRQガイドライン57)も診療現場における短時間の禁煙開始介入手順を示したものであるが、禁煙開始には喫煙の有害性、禁煙の効果などの情報提供や、喫煙しにくい環境の整備など動機付けの強化とともに、有効性が高く実行可能と喫煙者が感じる方法の提示が必要である。
喫煙者は、禁煙することを考えていないステージ(前熟考期)、禁煙することを考えているステージ(熟考期)、禁煙を試みようとしているステージ(準備期と実行期)の4つの禁煙ステージに分類され、この順にステージを巡りながら禁煙―再喫煙を繰り返すことが多いとする行動変容理論を「ステージ理論」と呼ぶ58)。禁煙成功という行動の変化としては現れずとも認識や意識は変化していることを評価したものであるが、禁煙支援は、喫煙者に即時の禁煙を求めるばかりではなく、喫煙者の禁煙ステージをより進んだものとすることも重要な目標とするものであり、医療者からの短時間のアドバイスを繰り返し受けることはステージの移行に有用である。ちなみに禁煙行動に関するステージの移行は、タバコによる出費の増大や職場での喫煙を限定する方向の職場規則の変更など、医療とは関係のない環境からの刺激によって引き起こされることも多いものであるが、同時に医療者からの禁煙のアドバイスは強力な禁煙への引き金であり、禁煙を勧められた患者の半数が禁煙にむかって努力することが示されている55)。

(2) ニコチン代替療法剤の利用
米国では1991年のニコチンパッチ市販化にともない、禁煙補助にニコチン代替療法剤を利用することが急激に普及した。日本においても、ニコチンガムは1996年から、ニコチンパッチは1999年から使用が認可されている。これらの薬剤は禁煙の開始に有効性が高い。
ニコチン代替療法の有効性については多くのデータがあるが、1996年のAHCPRの報告では1975年から1994年までの報告に基づいて禁煙方法の効果分析をおこない、自力での禁煙に比べ禁煙開始後6〜12ヶ月後にニコチンガムで1.4〜1.6倍、ニコチンパッチでは2.1〜2.6倍と禁煙成功者が多くなることが報告されている。なおニコチンガムに比べ、ニコチンパッチのコンプライアンスは良好であった55)。

ニコレット
ニコチンガム

ニコチン代替療法剤にはニコチンそのものが含まれ、皮膚や口腔粘膜の接触面から徐々に体内に吸収されて、禁煙に際して起こる離脱症状を軽減し禁煙を補助する仕組みである。タバコには200種類の有害物質が含まれるが、ニコチン代替療法剤にはニコチン以外は含まれず、吸収されるニコチンの量も喫煙者が喫煙によって吸収するニコチンより通常少量であり安全に使用できる。欧米では鼻腔スプレー、インヘラー、舌下錠など多くの剤形のニコチン代替療法剤が薬局で市販されているが、日本国内ではニコチンガム(ニコレット)とニコチンパッチ(ニコチネルTTS)の2種類の剤形だけが使用しうる。医師歯科医師の処方箋が必要であるニコチンパッチに比べ薬局で購入しうるニコチンガムが手軽さで勝るが、ニコチンパッチと比べて薬効は弱く、ニコチンガムで禁煙できなかった場合でも、ニコチンパッチの使用に切り替えて成功する可能性がある59)60)。

ニコチンパッチ
ニコチンパッチ

喫煙とニコチン代替療法剤の併用は一時的に喫煙本数を減少させるものの、ニコチンの過剰摂取につながることもあり危険な上、喫煙でニコチンが効率よく吸収されるためにニコチン代替療法剤の効果が減弱する。ニコチン代替療法剤使用中に生じる喫煙要求には後述する行動療法で対処するが、ニコチン過量症状に注意しつつ使用量を増量して対処する場合もある。
妊娠中の使用は認められていない。また心筋梗塞や脳梗塞などニコチンでリスクが増大する疾患に罹患した直後は使用に注意が必要である。
なおニコチンパッチ処方をはじめとする禁煙治療には健康保健が適法されない。したがって禁煙治療は高価につくという考え方もあるが、ニコチン代替療法に要する費用は一般的に数ヶ月のタバコ費用と同等であることから、タバコにかかる出費を考えるとき必ずしも高価な治療とはいえず今後の心筋梗塞の予防において禁煙支援は必須であるといえよう。

ニコチンパッチ
図5

(a) ニコチンパッチの使用法  
ニコチンを血中に吸収することによりニコチン渇望を軽減するが、ニコチンパッチに対して依存が生じることはほとんどないとされる。日本国内で発売されているニコチンパッチには、ニコチネルTTS30,20,10と3種類あり、それぞれ52.5mg、35mg、17.5mgのニコチンを含有している。使用開始後の喫煙要求の程度によって減量してゆく。標準使用方法では8週間の使用となっているが、短期間の使用でニコチンパッチを使用せずとも喫煙要求を乗り越えてゆける状況にいたる場合も多い。
副作用としては次の3点が上げられる。@接触皮膚炎A頭痛や全身倦怠:使用量が多過ぎた時に起こる。使用サイズを一段小さくする。B不眠:夜間にもニコチンを供給し続けるために起こる。寝る前にはがすとこの症状は軽減する59) 60) 61)。ニコチンパッチの利点、欠点とその対処法を図5に示す。
ニコチンガム
図6
(b) ニコチンガムの使用法  
 ニコチンガムはニコチン・レジン複合体をガム基材に含ませたもので、2001年9月から薬局での市販が認可された。ニコチンガム1個に含まれるニコチン2mgのうち約0.86mgが徐々に口腔粘膜から吸収されて血中ニコチン濃度を上昇させ、ニコチン離脱症状を軽減する。効果発現までの時間がニコチンパッチに比べて短いこと、はさみで切ったり2個連続で使用する、噛み方を調整するなどの方法でニコチン吸収量の調整がしやすい。副作用としては、口腔内トラブル、喉や胃の痛みなどが挙げられる。またニコチンガム依存を生じることがあると言われている62)。ニコチンガムの利点、欠点とその対処法を図6に示す。


(c)喫煙状況評価
一般医療現場で用いることのできる喫煙状況評価としては以下のものがあげられる。
1 問診 あるいはセルフレポート
2 呼気中一酸化炭素濃度測定
3 尿中コチニン測定
呼気中一酸化炭素濃度測定にはスモーカーライザー(Bedfont社製、原田産業06-6244-0978)を用いるのが一般的であるが尿検査が可能ならばNicCheck( Dynagene社 セテイカンパニー03-3403-7343)を併用することが望ましい。
生命保険加入などさらに長期的な喫煙非喫煙の判定には唾液中コチニン検査、毛髪中コチニン検査も用いられる。毛髪コチニン検査は喫煙状況の長期検出法としてすぐれているが、検査価格の点から一般臨床現場では用いられるにいたっていない。

(3) 再喫煙防止の重要視と長期フォロー
再喫煙によって喫煙習慣に戻ることは多くみられる。2週間から2ヶ月程度で消退してゆくことの多いニコチン依存と違って、記憶に起因する心理的依存は禁煙後も長期にわたり出現し、再喫煙を引き起こす。
(a)再喫煙契機
 さまざまな些細な出来事によって再喫煙が起こりうることが示されている。禁煙開始後3ヶ月以内の再喫煙率はとくに高く、再喫煙防止プログラムの支援を受けない場合には、禁煙した人のうちおよそ80%〜90%が1年後には再喫煙すると言われている。

吸いたい気持ちをコントロールする方法
表3 吸いたい気持ちをコントロールする方法

(b)行動療法
心理的依存に対処し長期に禁煙を継続してゆくためには、喫煙行動に結びつきやすい行動を避ける、喫煙行動のかわりとなる代替行動をとるなど行動療法を併用する(表3)が、コンプライアンスが良好で容易に喫煙要求減少効果を得やすいニコチン代替療法と異なり、行動療法を続けるためには次の3つの条件が必要となる。1. 行動療法のこまめな実行を促す周囲からのサポート 2. 禁煙に関しての良いモデルの存在や先の見通しを持てる状況 3. 禁煙に関しての正の方向での強化すなわち禁煙したことがよかったと感じることのできる経験を積むこと(セルフエフィカシーself-efficacy)。


(4)セルフヘルプアプローチの重視
一般的なセルフヘルプ法であるパンフレット配布や郵送法などは成功率は高くないが多人数が簡便に利用でき、費用効果比が大きいのが特徴である。日本循環器学会企画・制作の教材をはじめ、さまざまなセルフヘルプ教材が開発されている63)64)65)。また、日本心臓財団からも禁煙を呼びかけるパンフレットが製作されている66)。

6. 日本循環器学会禁煙宣言
たばことたばこ関連疾患の流行モデル図7 たばことたばこ関連疾患の流行モデル

7. おわりに
禁煙は喫煙関連疾患の予防や改善に役立ち大きな効果をもたらすが、禁煙の継続は容易でなく、喫煙をやめたくてもやめられない喫煙者は多い。
Lopesらが1994年に提唱したモデルを改変したRamstromのタバコ流行モデルを図7に示した67)68)。世界各国におけるタバコ流行は男性の喫煙率の増加(第一期)、男性喫煙率の減少開始と女性(および未成年)の喫煙率の増加(第二期)女性と未成年の喫煙率の減少の開始と喫煙関連疾患死亡の増加(第三期)喫煙関連疾患死亡が減少(第4期)の4つのステージにわけられるが、すでに第4期に達して肺がんなど喫煙関連疾患が減少傾向にある英国やフィンランドと異なり、わが国は女性および未成年の喫煙率の増加がみられ、男女ともに喫煙関連疾患が増加する第二期から第三期にある。
第三期の喫煙関連疾患の増加はまだ10年以上続くと見られる中、循環器疾患を予防する立場の循環器医師の役割として「喫煙をなくす」ための効果的な働きかけが実施され、非喫煙が当たり前の話となる日の来ることを願ってやまない。


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