『循環器疾患の重要性について』

主な死因別の死亡数の割合(平成14年度)
図1:主な死因別の死亡数の割合(平成14年度)
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 虚血性心疾患、心不全、高血圧、不整脈、脳血管障害などの循環器系疾患は、病死の主たる原因疾患であるだけでなく、その有病率も非常に高く、循環器系疾患に対する治療、そして予防は、国民生活において重要な問題となっています。
  厚生労働省にて、人口動態統計として毎年とりまとめられている死亡診断書〔検案書〕をもとにした死因統計では、図1に示すように、平成14年度において、死因の1位は悪性新生物31.0%ですが、心疾患は第2位の15.5%、脳血管疾患が3位の13.2%であり、この二つと大動脈瘤などのその他の循環器系疾患を併せると30.5%となり、死亡数は悪性新生物とほぼ同じとなります。一方、有病率に関しては、厚生労働省が3年ごとに行っている患者調査によると、平成11年度における傷病別推定入院患者数の一位は精神及び行動の障害で、調査日の時点で33万4千人が入院していることになりますが、循環器系疾患はそれにほぼ匹敵する31万7千人となっています。また、1日あたりの傷病別推定外来患者数に関しては、高血圧性疾患を含んだ循環器系疾患は101万1千人で、最多となっています。一方、調査当日に受診していない再来患者数を調整して算出した総患者数においても、高血圧性心不全などを含んだ高血圧性疾患は719万人と全疾患中最多であり、また、脳血管疾患は147万人、虚血性心疾患は107万人と、それぞれ第4位、第8位となっています。これは、糖尿病212万人、悪性新生物127万人と比較しても、高い数値であることがわかります。

平成12年度 一般診療医療費の内訳
図2:平成12年度 一般診療医療費の内訳
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  また医療費の面からも循環器系疾患は重要です。平成12年度の国民医療費は30兆3583億円(対国民総所得7.98%)となっており、そのうち歯科診療医療費などを除いた一般診療医療費は23兆9608億円(入院医療費11兆3425億円、入院外医療費12兆6193億円)を占めています。これを傷病別にみてみますと、循環器系疾患は5兆3708億円(22.4%)となり、以下に悪性新生物:2兆5928億円(10.8%)、呼吸器疾患:1兆9925億円(8.3%)と続きます(図2)
65歳以上に限ると医療費の32.7%%を 循環器系の疾患が占めています。すなわち、循環器系疾患に費やされる費用が飛び抜けて多いです.逆に考えると、循環器系疾患の予防、ならびにより効果的な治療法ができれば、最も費用効果が高くなると考えられます. 
  わが国は現在、欧米にも類のない急速な社会の高齢化を迎えています。それと共に食生活を始めとした生活環境の欧米化とあいまって、疾病構造の変化が現れてきており、循環器領域においても、虚血性心疾患に代表される動脈硬化性疾患が年々増加し、しかも様々な合併症を伴うようになってきています。また、社会の高齢化に伴い、当然患者の高齢化も進んでおり、高齢社会にあわせた治療法の構築が急務となっています。疾病に対する治療戦略において、単に生命予後を延長するだけではなく、いかに生活の質(QOL)を保ち、社会生活を行っていくかが今まで以上に重要な問題となってきます。この意味において、寝たきりなどの身体活動を制限する原因となる脳血管障害、心不全、虚血性心疾患など、さらにはそれらの発症基盤となる高血圧、高脂血症などに対する、治療ならびに予防は非常に重要です。


神戸大学大学院医学系研究科 循環呼吸器病態学
文責  川嶋成乃亮