茅ヶ崎市立病院における心臓カテーテル検査時の
C型肝炎の感染について


既に新聞等で報道されておりますとおり、茅ヶ崎市立病院において、平成18年暮れから平成19年春にかけて心臓カテーテル検査・治療を行った患者5人が平成19年秋までにC型肝炎を発症していた事実が確認されました。

C 型肝炎は血液を介して感染することから、同病院では患者・家族に経過説明し、原因解明のため血液検査を行い、他の患者の病歴調査を開始いたしました。さらに、院外の専門家をメンバーに加えた院内感染調査委員会を設置し、調査いたしました。その結果、当該患者5人は、心臓カテーテル検査・治療時の感染の可能性が極めて高いことであることが判明しました。

同病院ではPCIの際にカテ先の圧と同時にシースのサイドアームからも圧モニターをしていました。そこからのエアーを抜くために、トランスデューサー近位の三方括栓に付けたシリンジに血液の混入があった可能性があったとのことです。そのトランスデューサーとシリンジを取り替えなかったため、肝炎の感染が発生した可能性が高いと考えているとのことです。

つきましては、各先生におかれましては、下記の点についてご留意いただきますようよろしくお願いいたします。

【留意点】
1. トランスデューサーまで血液を引くことはしないこと
2. デスポ−ザブル製品は、デスポーザブルとして取り扱うこと(使用したデスポーザブルのトランスデューサーごと、圧測定システムを廃棄すること)
なお、同病院より学会宛に頂戴しております詳細につきましては、以下を御覧下さい。
以上
日本循環器学会
理事長 山口 徹 様
記者発表時の要旨について
平成19年11月2日にC型肝炎の院内感染を認知し、11月5日に茅ヶ崎保健福祉事務所に届け出をおこない、11月12日に外部の専門家を含めた、第1回院内感染調査委員会が開催されました。
これまでに同委員会は3回開催されており、茅ヶ崎市立病院は、同委員会における検討結果および同委員会からの指導に基づいて当院としての方針を決め、12月 25日に記者発表を行いました。しかしながら、マスコミ報道の表現においてバラツキがありましたので、発表時の要旨を提出します。

1. 観血的手技、つまり心臓カテーテル検査・治療(経皮的冠動脈形成術:PCI)の準備段階、手技中、検査終了後までを評価いたしました。使用する医療機器・器材の内容、使用・廃棄方法、搬入・搬出の経路、スタッフ・患者の動線についても検討いたしました。
また院内感染調査委員会の外部委員の先生にも検査室の立入調査をしていただきました。その中で感染に繋がる可能性のある点が見出されました。

2. 動脈圧監視装置の運用において、最も感染の原因となる可能性が高いと思われる問題点が見出されました。
心臓カテーテル検査を行う際には、動脈圧が測定できるように、患者の体内に挿入したカテーテルから、術者の手元の3連活栓からチューブをトランスデューサーに継ぎ、カテーテル先端部の心臓・血管内圧を測定します。


(1) トランスデュサーに圧を伝えるチューブまでの交換は確実に行われていることは確認できましたが、トランスデューサー自体が確実に交換されていることが確認できませんでした。これを交換し忘れても、これまでのマニュアルではチェックできないものでした。その点で不備があったと考えております。

(2) トランスデュサーが交換されなかった場合には、圧力をトランスデューサーに伝えるチューブから気泡を抜くための生理食塩水入りの注射筒もトランスデュサー近位部の三方活栓についたままで廃棄されず、次の患者に使われたと考えられました。

(3) この他に、検査室の動線:使用済みの器材の検査室からの搬出と、これから使用する未使用の器材を搬入する導線が交差すること。特に検査後、血液の混入した水(生理食塩水)はこぼれて感染源となり得ること。
一部の機器に血痕が付着しており、血液暴露を受けた後にきちんと消毒、清掃されていない。などの問題が指摘されましたが、いずれも今回のC型肝炎感染の原因としては考えにくいものと思います。

3. 18年12月、19年3月、19年4月の3日間でC型肝炎ウイルスの伝播がおきた8回の検査の内容で共通することは次のとおりです。


(1) HCVキャリアである患者が経皮的冠動脈形成術(PCI治療)を行った後に感染が伝播していること。

(2) PCI 治療時には患者の血圧変動が予想されるため、通常の検査時に測定する血管内に進めたカテーテル先端部の圧の他に、動脈穿刺部のシースという管からチューブを継ぎ、動脈圧を継続的にモニタリングします。このラインは動脈穿刺部に近いため、チューブ内の気泡を抜くために使う生理食塩水入りの注射筒に血液混入の可能性があることも確認できました。

4. これまでも術衣、覆布の一部を除き、器材はディスポーザブルのものを使用しております。覆布も基本的に1枚で患者の全身を覆うディスポーザブルのものを使っていますが、頚静脈穿刺時などで一部布製を使うことがある程度です。布製のものは使用後にそのまま袋に入れ検査室から搬出し、70度以上の高温で熱処理を加え滅菌消毒しております。

5. この間の心臓カテーテル検査に関わった医師は5人で、いずれも日本循環器学会(専門医4人)の会員で、検査・治療手技は標準的な手法であり、他の医療機関と大きく異なることはございません。

以上のことから、現時点で感染源として最も考えられることは、

検査マニュアルに不備があり、心臓カテーテル検査についての研修も結果的に不十分であったことも加わり、何らかの誤った操作・手技を行った可能性があります。その結果このような感染を引き起こしたのではないかと推定しております。

感染を起こした際に使用した器材が残っておらず、上記のような感染源は推定しましたが、さらに検証を進める必要があることから、記者発表という形で、外部に公表するに際し、感染が起こりうるすべての経路を遮断し、感染の危険度をより低くするために、動線、器材、環境、手技の項目に分類し、わずかでも可能性があると考えられる感染源、感染経路全てに対策を行いました。

また、検査マニュアルの改正を行い、使用したトランスデューサーごと圧測定システムを廃棄し、その製品番号を検査票に記載することで、再使用防止になると考えております。新人だけではなく、今いるスタッフも相互に監視、チェックを行い2度とこのようなことがないように努めてまいります。

なお、院内感染調査委員会の指導のもとで、現在も心臓カテーテル検査を継続しております。
平成19年12月26日
茅ヶ崎市立病院病院長 仙賀 裕