平成26年度の国民医療費は40兆8,071億円と前年度より7,461億円の増加となっていますが、傷病分類別にみると、「循環器系の疾患」の5兆8,892億円(構成割合20.1%)が最も多く、第2位の「新生物」3兆9,637億円(同13.6%)を大きく引き離しています。患者数が多い上に、入退院を繰り返す循環器疾患は、医療費の面でも大きな問題となっています。我が国は、戦後保健衛生水準の向上や国民皆保険制度の導入などの基盤整備と生命科学の発展による医療技術の著しい進歩により世界トップレベルの長寿社会を実現しましたが、平均寿命と健康寿命との間には、男性で9年、女性で12年の解離があります。この解離の大きな原因が循環器疾患と脳卒中です。そこで昨年、産官学政さらには全国民に循環器疾患と脳卒中の重要性を知っていただくとともに、学会の目標と戦略を明確にすることを目的として、循環器学会の学術委員長が中心となり、脳卒中学会と共同して「脳卒中と循環器病克服5カ年計画」を作成しました。12月16日に厚労省でプレスリリースを行い、厚労省や関係議員の方々にもお配りしました。学会のHP(http://www.j-circ.or.jp/five_year/index.htm)にアップしていますので、ご覧いただければと存じます。誰もが人生の終末期に至るまで健やかな生活を送ることができるように、我々は今後この「5ヵ年計画」を着実に実行していく所存です。
もう一つ昨年の出来事でご報告したいのは、個人情報保護法に関する活動です。法律の改正はすでに一昨年決まっており今春からの施行が予定されていますが、昨年の秋頃になってこのままでは大変な事態になることに気づきました。主な問題点は、観察研究においても全てインフォームドコンセントが必要になることと民間病院の研究への参加が不可能になることの2点でした。そこで国立循環器病研究センターの理事長や部長の先生方と協力して、循環器学会を中心に主だった10学会から要望書を内閣府に提出し、健康・医療戦略参与会合や医師会にも働きかけました。その結果多くの方からご支援をいただき、ようやく今までのオプトアウトが認められ、進行中の医学研究が滞らないこととなりました。これ以外にも、昨年は多くの委員会がそれぞれ新しい目標を掲げ新しい活動を開始しました。今後順次ご紹介していきたいと存じます。
さて今年の目標ですが、一番重要なのは「脳卒中・循環器病対策基本法」を成立させることです。「5ヵ年計画」で掲げた循環器疾患の診療体制の整備や全国レベルの疾患登録、研究・診療の飛躍的な活性化のためには国からの支援が必要であり、そのためにも基本法の成立が極めて重要です。会員の皆様の更なるご理解とご支援をいただければ幸いに存じます。
2017年が皆様にとりまして、素晴らしい年になりますことを心より祈念申し上げます。
日本循環器学会 代表理事 小室一成 東京大学大学院医学系研究科循環器内科学教授
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