三田村秀雄氏

 自動体外式除細動器(AED)の普及が、日本でも急速に進んでいる。しかし、一般市民が実際に心停止患者を発見した時に迷い無くAEDを使用できるかというと、まだそこまでには至っていないのが現状だ。日本へのAED導入に携わった三田村氏は、「AEDがあればよいというわけではなく、誰でも簡単に使えるという知識と、使う勇気が必要だ」と述べ、一般市民のより深い理解と協力を求めた。
 

一般市民によるAEDを使用した除細動は世界のスタンダード

 日本におけるAEDの導入は、2000年に大学主催の市民公開講座で初めてAEDの必要性が紹介されたのを皮切りに、2001年に日本循環器学会でAED検討委員会が発足し、2001年12月には飛行機内で客室乗務員が使用できるようになった。2003年には、救急救命士が医師の指示がなくても除細動を行えるようになり、2004年に一般市民の使用が解禁された。
 その背景には、これまでの救命体制では心停止患者の救命率が極めて低かったという事実がある。心臓突然死の過半数を占める心室細動から救命するには除細動が必須であるが、医師や救急救命士の処置を待つだけでは間に合わない。このため、一般市民によるAEDを使用した除細動を認めるのが世界的なスタンダードとなっており、日本でも医師以外の使用を禁止する理由がなかったのである。

AEDは講習なしで誰でも使える音声ガイド付き心臓救命装置

 AEDは、突然意識や呼吸がなくなった人に対して用い、必要に応じて電気ショックを与え、心臓の拍動を取り戻すための機器である。心停止患者の胸にAEDの装置をあてると自動的に電気ショックが必要かどうかを判断し、音声で使用方法を教えてくれる。必要のない場合には電気ショックが働かないため、一般市民でも間違いなく使用することができる、いわば「音声ガイド付きの押しボタン式心臓救命装置」である。
 AEDを使用するには、特別な講習や資格は必要ないが、講習を受けておけば救命の効率を高めたり、いざという時にパニックにならないというメリットがある。また、全くの素人がAEDを使用して救命できなかった場合や、万が一後遺症が残った場合に責任を負うかどうかという点については、法律上は緊急時の善意の行為として免責される。三田村氏は「AEDは講習を受けなくても誰でも使え、たとえ救命できなくても責任を負わない」ことを強調した。

AEDによる救命は適切な場所への設置と使う勇気が重要

図1
図1.AEDの設置台数〔矢野経済研究所,2006年版 機能別ME機器市場の中期予測とメーカーシェア(治療機器編)より〕

図2
図2.目撃された心原性心肺停止に対する市民による除細動

 AEDの設置に際しては、地方公共団体による補助金の支給や、広告スペースの提供による無償設置、個人であれば医療費に該当すると認められた場合には所得の控除が受けられるなどさまざまな財政的サポートが行われている。そのような影響もあり、2004年の解禁以来、AEDの設置台数は約3,600台から2006年には35,170台へと急増している(図1)。
 AEDによる救命例をみると、空港や駅などの公共施設で報告されている他、マラソン大会やテニス大会などのスポーツイベントでの報告例も多い。一方、ニュースとしても報道されたが、野球部の試合中にボールが胸に当たり「心臓震盪」という状態に陥った生徒を救命できた例とできなかった例が報告されている。AEDが学校内にあっても、グラウンドから遠い場所や、鍵のかかった保健室に設置されるなど、いつでも誰でも使える場所に設置されていないと役に立たない可能性がある。
 市民による除細動の実施件数(図2)は、2005年には全国で41件だったのが、2006年には140件と3倍以上に増加している。除細動を受けて1カ月後も生存している率をみると、2005年では27%であったが、2006年には32%に上昇しており、市民がAEDを使用すれば3人に1人は救命できるようになっている。しかし、心停止全体でみると、市民が除細動を行った例は1%に満たないのが現状だ。
 今後は、コンビニエンスストアやガソリンスタンド、交番、学校などにAEDの設置を進めるなど、地域において救命のためのインフラを築くことが望まれる。三田村氏は「AEDを使用する場面では、心の葛藤や不安、緊張などがあると思うが、人命救助のためにそれを乗り越える勇気が必要。これまでにAEDによる救命行為を行った一般市民を、メディアも社会ももっと賞賛すべき」と述べた。