
2025年5月12日(月): 【国民の皆様向けメッセージ掲載】

留学の動機
留学を希望してから留学するまでの流れ、留学先をどのように決めたか
2024年4月からイギリスのKing’s College London(KCL)へ留学し、現在9カ月が経過した時点で執筆しております。
私は大阪警察病院で研修医として経験を積む中、治療反応性が乏しい重症心不全症例に直面し、残された心筋組織を活かす治療法の必要性を痛感しました。この経験が基礎研究への関心を深め、大学院進学の動機となりました。その後、大阪大学大学院医学系研究科循環器内科で心筋細胞死の研究に従事する中で、心筋細胞の再生にも興味を抱きました。特に心筋細胞の分裂能を制御し、再生を促進する技術の臨床応用可能性に強く魅力を感じました。心筋細胞死と再生の両面における深い知見を得るべく、世界的な研究に触れるため海外留学を決意しました。
留学先選定では、循環器学において評価の高い研究施設を調査しました。その中でも、KCLのMauro Giacca教授が率いる研究室は、心筋再生分野でトップクラスの実績を誇り、豊富な研究資金のもとで国際的プロジェクトを展開している点に大きな魅力を感じました。加えて、私の研究テーマである「心筋細胞の分裂能制御」に特化した研究環境が整っていることが決め手となりました。
上司の推薦をいただき、Giacca教授宛に自己紹介と研究提案を記したメールを送付しました。その後、オンライン面談で具体的な研究内容や留学計画について議論を重ね、留学の約1年前に受け入れ許可を得ました。
留学前の準備について
1.語学の準備
語学力は留学成功の鍵であり、継続的な努力が欠かせません。私は移動中や作業中に無理のない範囲で、効率的な学習を心がけました。具体的には、Nature、Circulation や New England Journal of Medicine のPodcastを利用して専門用語を学び、TED Talks や Sky News の動画でプレゼンテーションやディスカッションに役立つ表現を習得しました。さらに、Netflixで日常会話のニュアンスに慣れ、覚えるべきフレーズをメモして繰り返し復習しました。
2.お金の準備
資金の準備は留学において最も重要な課題の一つです。留学決意後、妻の助けも借りながら数年かけて自己資金を貯蓄しました。留学時期が具体化した段階で助成金申請に奔走し、日本循環器学会の留学助成金に大変助けていただきました。研究計画書の作成では、上司に何度も添削を依頼し、「留学先での研究が日本や世界の循環器疾患治療にどのように貢献できるか」を明確に示すよう心がけました。円安と物価上昇に伴う経済的負担は避けられませんが、計画的な準備と支援の活用で初期費用の大きな負担を乗り切ることができました。
3.生活の準備
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ビッグベンとウェストミンスター宮殿を観光 -
家族とともにロンドンで生活するため、住居は安全性と利便性を最優先に選びました。日本語学校や日本人コミュニティがある地域を検討し、不動産サイトを利用してWeb内覧を行いました。Google Mapsを活用して周辺環境を確認し、渡英前に家具付き住居の契約を完了しました。また、渡英後の手間を軽減するため、日本で事前に銀行口座開設、携帯電話契約、海外長期駐在保険の手続きを済ませました。
留学先紹介
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ラボのクリスマスパーティー
筆者(手前)、Giacca教授(最上段左から3人目) -
KCLはロンドン中心部に位置し、心血管研究で世界的に高い評価を受けています。私が所属するMauro Giacca研究室では、心筋症の遺伝子編集治療、心筋保護因子の探索、心筋組織の再生を目指す研究が行われています。私の研究テーマは、心筋細胞の分裂促進を目指し、タンパク質や遺伝子の発現調整を活用する非常に挑戦的なプロジェクトです。
研究室は多国籍で、イタリア、ポーランド、スペイン、中国などから集まった研究者たちと日々刺激的な議論を交わしています。同じフロアには複数の研究グループがあり、活発な共同研究や知識交換が行われています。Giacca教授は、研究資金の確保と研究指導の両面で卓越しており、最先端の機器やツールを自由に使用できる環境が整っています。自己裁量が重視されるため、効率的かつ主体的に研究を進めることが求められています。
留学先での生活
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聖地ウェンブリースタジアムでのフットボールイングランド代表戦観戦 -
ロンドンでの生活は、研究だけでなく文化的な面でも非常に充実しています。ご存じの通り、イギリスは大英帝国時代から良くも悪くも世界に多くの影響を与えており、その歴史には感服いたします。産業革命での蒸気機関の発明や、そこから確立された資本主義、ミュージカルや絵画といった芸術の勃興など世界の中心であったことを日常で感じられます。特にプレミアリーグのサッカー観戦は圧巻で、地元の老若男女が熱狂的に応援する姿に感動を覚えました。フットボールの歴史と文化が根付いた生活に触れることで、新たな視点を得ることができました。
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ミュージカル、ライオンキング鑑賞 -
生活費の高騰を受け、外食を控え自炊を日課としています。家族との時間を大切にし、休日には広大な公園でピクニックをしたり、子どもとフットボールの練習をしたりと、博物館や美術館を巡りロンドンの魅力を家族で楽しんでいます。 妻には仕事を退職してもらい、子どもには不慣れな英語環境下で通学してもらっています。家族には、私のキャリアのために多大な負担を強いていることを忘れず、日々感謝の気持ちを持ちながら生活しています。
留学を希望する
先生たちへアドバイス
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フランス、リヨンへの小旅行。
ベルクール広場にて -
留学は人生を豊かにする素晴らしい経験だと信じています。現時点では、準備段階での苦労は忘れられず、現地生活の中でも困難に直面することも多々ありますが、それらを一つ一つ乗り越えることで家族全員が成長していると実感しています。
「できない理由」を挙げるのは簡単ですが、本当に得たいものを得るためには一歩踏み出す勇気が必要です。ぜひ挑戦することを恐れず、新たな可能性を広げてください。
お問い合わせ先

- 一般社団法人日本循環器学会 渉外委員会(国際)担当
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〒101-0047 東京都千代田区内神田1丁目18番13号 内神田中央ビル6F
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