JCS『留学体験記』Story#02-辻 正樹先生

留学の動機

留学を希望してから留学するまでの流れ、留学先をどのように決めたか

前所属先である東大病院では重症心不全および心臓移植に携わっていました。日本の心臓移植件数は増加傾向にあるものの、欧米と比較すると非常に少なく、移植前後の管理方法にも大きな違いがあることから留学を志望しました。

漠然とした留学を希望していたものの、コロナ禍の影響もあり、実際に動き出すタイミングは遅れました。留学先を決めるプロセスは難しく、まず心臓移植件数の多い施設をいくつかピックアップして、それぞれの施設でどのような研究がされているかを調べました。また、過去に候補施設に留学されていた先生方にも話を伺い、情報収集をした上で、最終的にアメリカの2-3施設に絞りました。

幸いにも、医局の先輩方を通して現留学先のPIであるDr. Jon Kobashigawaとつながることができました。メールでのやり取りの後、2023年の国際心肺移植学会(ISHLT)で面談(写真1)を行い、Cedars-Sinai Medical Centerへの留学が決まりました。具体的に動き出してから留学先の決定までは1年程度かかったのではと記憶しています。

留学前の準備について

1.語学の準備

私は帰国子女でなく、日本の英語教育しか受けておらず、むしろ英語は苦手な部類でした。留学前にはTOEICの勉強やPodcastの視聴をしていましたが、実際に渡米すると、会話の理解や自分の意図を正確に伝えることの難しさに直面しました。もっと語学対策をすべきだったと痛感しています。留学経験のある先輩方からも、語学の準備を徹底するようアドバイスを受けていましたが、改めてその重要性を実感しました。語学の勉強は今すぐにでも始められますし、やりすぎて困ることはないので、十分に準備されることを強くお勧めします。

2.お金の準備

  • アメリカは円安とインフレの影響で、経済的な負担が非常に大きいです。特にカリフォルニア州は家賃や物価が高く、貯金を切り崩しながらの生活を強いられています。留学前に応募可能な留学助成金を調べ、応募できるものには全て応募しました。その結果、日本循環器学会から留学助成を受けることができました。この場を借りて感謝申し上げます。

3.生活の準備

アメリカの移植システムや日本に導入されていない検査や治療に関する知識を事前に学び、研究のテーマの候補をいくつか考えておきました。

留学先紹介

  • Cedars-Sinai Medical Centerはカリフォルニア州ロサンゼルスにある病院(写真2)です。高級住宅地のビバリーヒルズの近くにあり、病院からはハリウッドサインも小さくですが見えます(写真3)。Swan-Ganzカテーテル発祥の病院であり、病院の歴史を辿る一画にはSwan-Ganzカテーテルが展示されています(写真4)。循環器診療・研究が盛んな病院であり、基礎研究・臨床研究問わず、他のラボにも日本人が留学されています。

私のラボはDr. Jon KobashigawaをPIとする心臓移植の研究室になり、Dr. Kobashigawaは現在アメリカ移植学会のプレジデントも務めています。成人の心臓移植件数は全米有数(2024年は137例)であり、心臓移植に関する数多くの研究が行われています。

私自身の業務としては、前向き研究の研究計画書やグラント申請の作成、前向き研究として血管内超音波の解析、病院データを用いた後向き研究などを行っています。また病棟回診やカンファレンスへ参加し勉強しています。デスクワーク中心ですが、業務環境はよいです(写真5)。Research fellowとしてUAEから留学に来た先生がおり、一緒に働いています。研究については AHA(写真6), ISHLTでの発表を行い (アメリカ心不全学会はハリケーンのため中止になってしまいました)、論文作成に取り組んでいるところです。

留学先での生活

  • ロサンゼルスは車社会なのでどこに行くにも車が必要で、渡米してすぐに車を購入しました。休みの日にはスポーツ観戦や州内の都市や国立公園に行ったり、アメリカ生活を楽しんでいます。ロサンゼルスにはビーチがたくさんありどこも大変気持ち良いです(写真7)。昨年はメジャーリーグのロサンゼルス・ドジャースがワールドシリーズで優勝したので盛り上がりました。

    また、渡米してから妻の妊娠が分かりアメリカで出産を経験しました。医療システムの違いから苦労することも多かったのですが、貴重な経験ができました。医療費の高さと出産当日の病院食がハンバーガーだったことには驚きました。現在は育児に奮闘していますが、家族と過ごす時間が多く取れるというのも留学のメリットと思います。

ロサンゼルスの気候は雨が少なくカラッとしていて大変過ごしやすい天気ですが、昨年から今年にかけては雨がほとんど降らず、2025年1月7日にロサンゼルスで大規模な山火事が発生しました。この体験記を書いている1月中旬も鎮火することなく燃え続けています。自宅から数マイルのところでも火事が起きたましたが、幸い避難することなく生活できています。一時的に避難を余儀なくされた同僚もおり、一日も早く鎮火することを願っています。

留学を希望する
先生たちへアドバイス

  • 私は多くの人の助けを受けて留学することができました。留学が決まるまで長い道のりですが、様々なネットワーキングを活用して、まずは相談することが大事と思います。きっと手を差し伸べてくれる人がいると思いますし、相談することで道が開けることもあります。

    そして、留学してからも様々な困難はありますが、それを受け入れるおおらかな気持ちも大切だといま感じています。私のこの体験記が少しでも留学を希望する先生方の役に立てれば幸いです。

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一般社団法人日本循環器学会 渉外委員会(国際)担当
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