日本循環器学会::提言「学校での心臓突然死ゼロを目指して」

提言「学校での心臓突然死ゼロを目指して」

                                           
日本循環器学会AED検討委員会
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1.なぜ、学校内救命体制の確立が求められているのか

 学校内へのAED設置が進展し、不測に生じた生徒の心停止から救命される事例が増えつつある。その一方で、AEDが設置されていたにも拘わらず、それが適切に使われずに失われた命も少なくない。2011年さいたま市の小学6年生、桐田明日香さんが長距離走の直後に倒れ、AEDが使われることがないまま死亡するという事故があり、その反省から市教育委員会と遺族によって「体育活動時等における事故対応テキスト:ASUKAモデル」が作成された。

 心停止発生直後の救命体制を念入りに準備すれば救命率を向上させることは決して不可能なことではない。AEDが周到に準備された愛知万博では心停止5例中4例(80%)、東京マラソンでは心停止7例中7例(100%)と、高い救命率が達成されている。一般に若者ほど心停止からの救命率が高いことが知られているが(右図)、心停止の瞬間が目撃されやすく、周囲に人手も多い学校内においても、周到な準備、日ごろからの訓練、緊急時の連携体制などの整備によってさらに高い救命率が期待できる。本提言は若者の悲劇を繰り返さないために、また救える貴重な命を救うために学校がとるべき対策を提案し、学校内における心臓突然死ゼロを目指すものである。

2.学校内での心停止時に胸骨圧迫とAEDは必須

 学校内には心臓病を持つ児童生徒も在籍する。小中学校校内で発生した心停止例(事故例を除く)の分析(Mitani Y, et al. Circ J 2014;78:701-7)によると、その半数は既に心臓病で管理を受けていた児童であったが、残る半数は事前に心臓病の診断が下されていなかった。さらに学校やスポーツ現場ではしばしばボールなどで胸を強打する事故が起こるが,その際に心室細動と呼ばれる不整脈が起こって心停止に至ることがあり(心臓震盪)、心停止の予知は極めて困難といえる。心臓震盪を除外した上述の分析では,校内心停止の97%が目撃されており、84%の例で胸骨圧迫(心臓マッサージ)などの蘇生術が施され、38%の例で校内のAEDが使用されている。その結果、72%の1ヶ月生存率が報告されているが、停止例の94%で心室細動が確認されており、この心室細動を止めて元のリズムに戻すAEDがもっと現場で使用されていればさらに高い救命率が得られた可能性がある。AEDは既にほとんどの小中高学校に設置されており、その迅速な活用と、その前後の血液循環を助ける胸骨圧迫(心臓マッサージ)の徹底という救命体制を学校現場で整備強化することにより、100%近い救命率を実現することも決して不可能ではない。(http://www.j-circ.or.jp/cpr/call.html

注:学校内では小中学生よりも高校生の心停止発生率の方が高く、また教師など職員の心停止も起こるため、AEDの有用性はさらに高い(Nishiuchi T, et al. Resuscitation 2014;85:1001)。一方、小学校前の幼児では不整脈を原因とする心停止は比較的稀なため(Nitta M, et al. Pediatrics 2011;128:e812)、幼稚園や保育園などへのAED設置は必須でない。しかし、救命例も報告されることから、もしそれらの施設でAEDを設置する際には幼児用電極パッドを用意する(しばしば小児用と表示されているが、実際にはおよそ6歳までの未就学児用のものであって、年長者に使用してはならない)。

3.どこに、どのようにAEDを設置するか

 学校によってはAEDを保健室や教員室、警備員室に保管しているところもあるが、AEDの配置にあたっては使われる可能性の高い場所(図)からのアクセスを意識する必要がある。またAEDを取りに行くのは教師とは限らず、ときに生徒である可能性も想定したい。

前述の外傷を除外した分析によれば、校内発生の心停止の84%がグランド、プール、体育館で運動に関連して起こっている。心臓震盪の多くも運動に関連していることを考慮すれば、運動場所を意識したAED設置が強く推奨される。また部活動など、休日や夜間の活動中の心停止に対応できる配慮も求められる。なおAEDの保守の観点から、管理者を決め、電極や電池の交換を怠らないことも重要である。
学校内の設置推奨場所 1.人目につきやすい場所、児童生徒も含め皆が毎日、目にする場所に設置
 設置場所を示す看板を掲示
 例えば玄関ロビーや職員室・保健室近くの廊下
2.学校内のどの場所からも片道1分以内で取りに行ける場所に設置 
 1台でそれが不可能な場合にはAEDを取り寄せる体制を整備するか、台数を増やして対応
3.運動が行われるグランド、プール、体育館など心停止が発生しやすい場所へのアクセスを考慮
 但し雨に濡れる場所や、気温が極端に高い/低い場所は避ける
4.保管場所は施錠せずに24時間、365日アクセス可能な状態に
5.運動会や試合などの開催時には、随時その近くにAEDを移動
 一時的にAEDをレンタルすることも考慮
 マラソン大会ではAEDの複数の配置場所に加え、自転車での携行も考慮
6.クラブ活動や対外試合などで学校を離れる際には、携行用のAEDを用意
7.近隣の住民にAEDが必要な事態が生じたときに、校内のAEDを貸与できる工夫が望ましい

【参考】
AEDの具体的設置・配置基準に関する提言(日本循環器学会、日本心臓財団)
AEDの適正配置に関するガイドライン(厚生労働省)
AED設置ガイドライン普及版(減らせ突然死プロジェクト)

4.職員救命訓練と急変時のチームワーク

 全職員は学校内で突然死が生じうること、その際には時間とチームワークが鍵であること、それを活かせれば高い救命率が得られることを学んでおく。 学校内では運動関連の突然死が多いことから、救命体制構築には養護教諭に加え、体育教師が主導的に統括,推進することが望ましい。職員は全員が定期的に救命講習を受けておくほか、スポーツのコーチなどを外部から招聘する場合にも同様の周知、教育、訓練の徹底が望まれる。また講習は座学だけでなくグランド、プール、体育館のそれぞれの場所において心停止発生を想定した実地訓練を行うことも重要である。

平時より緊急時に備えた連絡体制を整えておくことも重要である。職員は全員が携帯電話を可能な限り常時持ち歩くこと、体育の授業などではすぐそばに置いておくことが勧められる。急変時の連絡先も予め統一しておくこと、必要に応じて校内放送を利用することなども打ち合わせておくことが望ましい。 急変時の具体的な対応においては各人の役割分担が重要であり、それを予め全員が理解していることが求められる。以下はあくまで参考案であり、それぞれの学校の状況に応じ、独自のより適切なプロトコールを検討されたい。
目撃者Aと周囲に居合わせたもの
(1)「突然倒れた、反応(意識)が10秒以内に戻らない、いつもの呼吸をしていない」場合には心停止を疑う。判断に迷う場合は心停止に準じて行動する。
(2) そばの誰かに119番と応援の要請、(AEDが近くにあるときには)AEDを取ってくるよう指示。
(3) 自身あるいは依頼された者が緊急時連絡先Bの携帯に連絡し、応援を依頼(状況に応じてAEDを依頼)
Bに連絡がとれないときには校内放送で助けを呼ぶ
 「緊急連絡・・・に応援をお願いします」
(4)胸骨圧迫(心臓マッサージ)を開始

連絡を受けた者B
(1)倒れた時刻を確認
(2)119番通報が既に行われたか、AEDを持って行くべきかを確認
(3)直ちに応援に向かうことを伝え、必要に応じ119番通報(Aは胸骨圧迫続行)
(4)現場にかけつけて、Aと共に救命処置にあたる(担架は不要)
なお携帯はスピーカーフォンに切り替え、処置中も救急隊との会話を可能に

その他の協力者
応援にかけつけたCは生徒の担任Dとも連絡をとり、自身は校門に待機し、救急車の誘導
担任Dは生徒の名前や持病、主治医、通院先などを確認すると共に、親に連絡、さらには学校管理者にも電話で報告する

5.ハイリスク児童生徒の把握と平時からの備え

 心臓突然死のリスクを有する心疾患の発見には検診の徹底が欠かせない
病歴、身体所見のほか、心電図がとくに有用である。
  心電図異常あり:肥大型心筋症、先天性心臓病、心筋炎、QT延長症候群、WPW症候群
  心電図異常なし:川崎病、冠動脈奇形、カテコラミン誘発性多形性心室頻拍 など
心電図に異常を認めないハイリスク例(非経過観察例)の心停止は大部分が運動時に起こる特徴がある。一方、心電図に異常を認める例(経過観察例)の心停止は運動時のみならず、安静時にも発生することがあるため、生活管理に加えてAED使用の可能性について、日頃から担当医と話し合っておくことが望ましい。
児童生徒の症状、とくに運動時の胸痛、動悸、めまい、失神の出現には注意を払う必要があり、体調管理に加えて、必要に応じて医師の受診も検討する。

ハイリスク児童生徒が在籍するときには予め
・病気と急変時対処法を職員に周知し共有すること
・病名、既往歴、服薬内容、禁忌薬、主治医、保護者などの情報をいつでも医療関係者に提供できるように用意しておく
・生活制限(運動制限、水泳禁止等)について校医,保護者と連絡を密にとる

6.児童生徒への救命法教育

 以下の3つの理由から、救命法は教職員だけでなく児童生徒も学ぶ必要があり、カリキュラムの整っている学校こそがそれを学ぶ絶好の場所である。
(1)救命は教師が児童生徒に対して行うだけとは限らない。学校内の心停止であっても第一発見者は児童生徒のみの場面も多いはずである。また、心停止に陥るのは児童生徒のほか、教師や参観中の保護者もありうる。そこで迅速に動けるのは大人とは限らず、子供の方が迅速な対応をとれることもある。
(2)日本では年間7万5千人を超える心臓を原因とする心停止が病院外で発生している。学校の内外を問わず、突然の心停止に児童生徒が適切な対応をとれれば、救命に大きな力となる。大規模災害時にも子供達の協力は欠かせない。子供の時期から繰り返し救命法を学ぶことで、成長して社会に出てからも役立つ有用なスキルとして定着させることができる。
(3)小児期から人の命を救うことを学ぶことによって、他人の命を大事にする心、共助の精神が育まれる。さらに、自己有用感の醸成にも役立つ。

小学校、中学校、高等学校のそれぞれにおいて義務教育の一環として救命法の指導と訓練を行うことが望まれる。
[対象] 小学校中高学年から
[指導者] 教員(医師、看護師、消防職員等の協力を得ることも考慮)
[指導内容と方法] 
・年齢や発達段階に応じた指導内容とする
・心停止の診断、通報、胸骨圧迫(心臓マッサージ)、AEDの使用法を学ぶ
・授業時間に合わせ、少なくとも1回につき45〜90分の時間をかける
・実技を行う時間が長くなるように簡易蘇生人形を活用するなどして、資機材を可能な限り多く準備する
・校内のAED設置場所を確認するなど、実践的内容とする。教室内だけでなく、グランド、プール、体育館などでの訓練実施も有効
[参考]
学校での心肺蘇生法の指導法、指導内容に関するコンセンサス2010
(日本臨床救急医学会 学校へのBLS教育導入検討委員会)

[副読本]
命を守る心肺蘇生・AED救急車がくる前にできること
(教師用解説書もあり)
発行:「減らせ突然死」プロジェクト実行委員会