「市民参加のAED:普及5年間の実績と課題」
東京都済生会中央病院 副院長 三田村 秀雄 氏

 2004年に自動体外式除細動器(AED)の市民による使用が解禁されて5年。AEDは確実に普及し、さまざまな場所に設置されるようになった。AEDは、救助者がAEDの音声ガイドに従って電極を貼り電気ショックのボタンを押すだけという簡便な器械であるが、設置場所、実際の使用法の啓発不足などさまざまな問題と、今後解決されるべき課題が明らかとなってきている。
 三田村氏は、AEDの普及と使用に関してこれまでに明らかになった課題を整理し、AEDの周知を促すためのマスコミ・メディア関係者の協力を訴えた。

AED普及の成果と現状

図1

図1 市民による除細動の有無と1カ月後生存率

 心原性心停止の原因のほとんどは心室細動であるため、電気ショックによる蘇生が必要となる。迅速な除細動が患者の生還を左右するとして、日本循環器学会は市民によるAED使用が少しでも早く解禁されるよう、その先頭に立って活動してきた。そして、2004年7月、AEDの市民による使用が解禁され、以降5年のあいだに、AEDは街中や交通機関、観光地などの各所に設置され、2008年末の時点で15万台が普及するに至った。
 消防庁からは、目撃された心原性心肺停止例のうち市民によりAEDが使用されなかった患者の1カ月後の生存率が9.7%であるのに対し、使用された患者では42.5%と、蘇生にAEDが使用された場合、じつに4割の患者が生還するという画期的なデータが報告された。また、市民がAEDを使用して救命処置を行った心肺停止患者は、2005年の46例に対し2007年には287例、と2年間で6倍に増えている。しかしながら、AEDが使用された患者287例は、2007年の目撃された心原性心肺停止患者19,707例の1.5%にすぎない(図1)
 日本循環器学会は「Call and Push」を掲げて、胸骨圧迫心臓マッサージとAEDによる蘇生法を呼びかけている。「Call」は迅速な119番通報、「Push」は胸骨圧迫のpushと、AEDのボタンを押すpushの2つの意味をかけたものである。AEDの普及にとどまらず、積極的に活用される必要がある。

AEDの課題1:そこになかった

 AEDに対する社会的な要請が増大する一方で、現在AEDが直面する課題が明らかになってきている。
 まず第一に、心停止患者が発生した場にAEDがなかったことが挙げられる。AEDの設置は任意で、行政による義務付けはなく、設置に関するルールも存在しない。また、購入にあたっての補助金が支給されないことが多く、補助金が支給される制度があったとしても周知は不十分である。AEDはさまざまな場所に設置される必要があるが、設置されていても台数が少なかったり、鍵がかけられて保管されていたりと迅速な除細動が実行しにくい状況にある。
 行政の対応についても、学校に設置されたAEDは文科省、空港では国土省といった、AEDの設置場所・設置者に基づく「縦割り行政」ではなく、省庁間の垣根を越えた政策づくりが不可欠であろう。

AEDの課題2:あったけれど使われなかった

 2つめの課題は、AEDが設置されていたにもかかわらず使用されなかったことである。AEDが何の器械であるかが理解されていなかったり、使い方がわからなかったりと、AEDの周知・啓発がまだまだ不十分であることがうかがわれる。すぐに取りに行ける場所になかったために使用できなかったなど、設置場所の改善も求められる。

AEDの課題3:使ったのに救命できなかった

 最後に、AEDを使用したのに救命できなかったことが挙げられる。AEDは心室細動を元に戻すための器械であるため、心室細動ではない、あるいはすでに心静止に移行した心停止患者への救命手段にはなりえない。また、心室細動を起こしているが、発症から時間が経過したために電気ショックへの反応性が低下する場合もある。さらに、AEDの電池切れや電極の劣化なども問題となりうる。また、小さなトラブルではあるがAEDの誤操作も報告されており、講習会などを通した手技の実体験も重要である。

AEDがもたらした救急医療のパラダイムシフト

図2

図2 AEDが引き起こしたパラダイムシフト

 AED使用の市民への解禁により、救急医療のあり方は、医療施設で専門家が行うものであった医療から、街中で患者の求めがなくとも無資格者が善意・無償で行う手当てへと大きくシフトした(図2)
 三田村氏は、救急医療への市民の参加の意義を強調したうえで、AEDの効果的な使用のために「AEDへの関心をより高めること、行政の問題点や改善点を追求すること、救助者の行為を結果にかかわらず賞賛することなど、メディアの協力をお願いしたい」と訴えた。

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