日本循環器学会
タイトル画像
是恒之宏 先生

わが国でも2011年3月に新規の抗凝固薬ダビガトランが上市され、抗血栓療法は大きな転換期を迎えた。この転換期の状況下、日本循環器学会では、心房細動治療にあたる医師に対して新規抗凝固薬に関する情報を提供するために「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」を8月に発表している。是恒氏は新規抗凝固薬の登場までの経緯と緊急ステートメントについて解説した。

ワルファリンの問題点と新規抗凝固薬

心房細動は脳梗塞発症の危険因子であり、心房細動患者では脳梗塞の予防が非常に重要である。また、エビデンスの集積によって、脳梗塞の予防には抗凝固薬が有用であることがわかっている。しかし、抗凝固薬として主に用いられてきたワルファリンはその有効性の一方で、「投与量に個人差が大きい」、「安全域が狭い」、「維持量に到達するのに時間がかかる」、「食事の影響」、「他の薬剤との相互作用」、「診察前採血による効果判定と用量調整」、「出血のリスク」など多くの問題点を有している。

こうしたワルファリンの問題点を解決する新規の薬剤として現在、直接トロンビン阻害薬、第Xa因子阻害薬が期待されており、リバロキサバン、アピキサバン、エドキサバンといった開発中の第Xa因子阻害薬など、今後新たな抗凝固薬が続々と登場すると予想される。このような新規抗凝固薬のうち、直接トロンビン阻害薬ダビガトランは、RE-LY試験にてワルファリンに対する有効性、安全性を示した。

RE-LY試験は、わが国も参加した第III相国際共同試験で、2009年に結果が報告された。 脳卒中/全身性塞栓症の年間発症率の評価では、ダビガトラン150mg×2回/日投与群がワルファリン群に比べ有意に減少を示し、110mg×2回/日群でもワルファリン群と同等であった。抗凝固療法で懸念される出血性障害に関しても、頭蓋内出血の発現率はワルファリン群に対して有意に低く、大出血の発現率は、2011年に報告されたサブ解析ではダビガトラン150mg×2回/日群がワルファリンと同等、110mg×2回/日群でワルファリンに比べ有意に低いという結果であった。また、大出血の発現率と腎機能障害の関連を評価したところ、ワルファリンと同様に腎機能障害の程度とともに発現率が上昇することが明らかとなった。

ダビガトランは、RE-LY試験の結果を受けてわが国でも「非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制」を適応症として、2011年1 月に承認、3月より販売されている。

心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント

ダビガトランの登場により、心房細動患者の抗血栓療法が大きな転換期を迎えた今、新規抗凝固薬の正しい位置づけ、ワルファリンとの棲み分けなどの情報を周知することが喫緊の課題となっている。日本循環器学会では必要な情報を提供すべく、2011年8月12日に緊急ステートメントを学会ホームページにて発表したので、その要点を概説する。

まず、「心房細動治療(薬物)ガイドライン(2008年改訂版)」 および「循環器疾患における抗凝固?抗血小板療法に関するガイドライン(2009年改訂版)」での心房細動における抗血栓療法の適応に関して、ダビガトランとワルファリンの適応患者の改訂を提案した(図1)。

この提案では、非弁膜症性心房細動例で、リスク評価を「CHADS2スコア」と「その他のリスク」に分け、ダビガトランについては、CHADS2スコア 1点 の症例でもダビガトランを「推奨」とした(2点以上も「推奨」)。これは、RE-LY試験の対象患者のうち31.9%がCHADS2スコア0~1点(0点は2.5%)で、しかも0~1点、2点、3~6点の全てのサブグループにおいて一貫した有効性と安全性が確認されたことに起因する。ワルファリンの適応は従来と同様で、CHADS2スコア2点以上には「推奨」、1点では「考慮可」とした。また、「その他のリスク」に分類される症例には、ダビガトランを使用することを「考慮可」とした。

また、禁忌症例への投与も含め、ダビガトラン投与例で重篤な出血事例が報告されていることから、タビガトランの用法・用量について言及しており、高度腎機能障害(クレアチニンクリアランス30mL/min未満)のある患者にはダビガトランを投与してはならないこと、70歳以上の患者や消化管出血の既往を有する患者など出血の危険性が高いと判断される患者には、用量を110mg×2回/日に減量して血性合併症を回避すべき、としている(図2)。

さらに、RE-LY試験での日本人登録患者が326例のみであったことから、出血のハイリスク患者に対する日本人での至適用量について、また重度の弁膜症合併例についてもエビデンスは乏しいと指摘している。したがって、市販後調査により日本人における安全性と有効性を確認する必要があるとし、今後は日本人での至適投与量の確認、より安全な使用のためのモニター法の開発などを含め、薬剤の特性を十分理解した上での適正使用の重要性を発信していくとしている。

図1 図1 ダビガトランとワルファリンの適応(「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」より)
図2 図2 ダビガトランの用法・用量について(「心房細動における抗血栓療法に関する緊急ステートメント」より)

新規抗凝固薬の適正使用に向けて

ダビガトランによる重篤な出血に関しては、製造販売元の日本ベーリンガーインゲルハイム社からも8月、「安全性速報(ブルーレター)」として注意喚起の情報提供がなされている。是恒氏は、製薬会社の医薬情報担当者には適正使用・出血例への対応についての医師への情報提供を、薬剤師には患者に対する服薬の指導を要望し、最後に「抗凝固薬の新しい時代は今、夜明けを迎えたばかりである。新規の抗凝固薬がワルファリンにとって代わるということではなく別の選択肢が増えたという観点で、より適正な使用が普及していくよう尽力していきたい」と今後の決意を述べ、講演を締めくくった。

▲PAGE TOP