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「肺高血圧症の診断」杏林大学医学部 循環器内科 教授 佐藤 徹 氏

わが国における肺高血圧症の有病率は、厚生労働省の難病登録集計を基にすると、肺動脈性肺高血圧症(PAH)が100万人あたり10~15人で、うち特発性PAHの年間罹患率は2~3人と稀な疾患であるが、診断技術の進歩とともに発見率が向上し、有病率は徐々に増加している。

佐藤氏は、肺高血圧症診療の変遷においての自身の経験を交えつつ、肺高血圧症の診断について講演した。

問診・診察、胸部X線検査、心電図検査

肺高血圧症の診断は、まず病院に来た患者の問診から行われる。肺高血圧症の症状は、労作時の息切れ・易疲労感・胸痛・失神などが挙げられる。易疲労感や胸痛はさまざまな疾患で現れる症状なので、これらの症状から肺高血圧症を疑うことは困難だが、息切れは肺高血圧症を疑うには有用な症状である。失神を起こす疾患もそれほど多くはないので、失神がきっかけで肺高血圧症が発見される場合もある。

症状から肺高血圧症が疑われたら、胸部X線検査、心電図検査を行う。肺高血圧症だと、心電図検査で右室肥大が確認される。ただし、これらの検査は感度があまり高くないという問題があり、早期の患者では診断に至らず治療開始が遅れてしまう場合もある。また、身体診察(右室拍動の聴診など)はこれらの検査より感度が高く有用であるが、肺高血圧症に特徴的な診察所見は医師にあまり知られていないという実態がある。

心エコー図検査

前述の検査から肺高血圧症が疑われる場合、続いて心エコー図検査を行う。心エコー図検査では、連続波ドプラ法で計測する三尖弁逆流の血流速度の測定により肺動脈圧が推定でき、これにより肺高血圧症の診断と重症度をある程度評価できる。ただし、この検査での肺動脈圧の評価は誤差が大きく、正確な圧測定は困難であるため、確定診断や治療効果判定を行うことはできない。確定診断は次に述べる右心カテーテル検査で得られる。しかし、心エコー図検査は非侵襲的で、右心カテーテル検査に先立つスクリーニングとなり、得られる情報も診療に活用できる。

肺高血圧症は頻度が少なく鑑別疾患に挙がりにくいため、発見するには症状から肺高血圧症を疑うことと、まずは心エコー図検査を施行することが非常に重要である。

右心カテーテル検査

前述のように心エコー図検査でおおよその診断は可能だが、確定診断のゴールドスタンダードは右心カテーテル検査である。この検査では、静脈(大腿静脈、内頸静脈、鎖骨下静脈、尺側皮静脈)からカテーテルを入れ、肺動脈圧のほかに右心房・右心室および肺動脈楔入圧などを測定し、肺血管抵抗や心拍出量が算出できる。これらの結果から重症度および治療効果が判定でき、さらに予後の評価も行える。一方、右心カテーテル検査は侵襲的であり、患者は治療の過程で経過をみるためにこの検査を繰り返し受けなければならず、患者の負担を軽くし安全に行うための工夫が必要となる。

鑑別検査

肺高血圧症は、原因により治療方法が異なるので、原因を見極めるために鑑別検査を行う。鑑別検査においては、肺高血圧症の分類(ダナポイント分類、2008年、)に従って検査を進める。肺高血圧症の分類は、1998年から5年毎に開催される世界会議によって整備されるようになったが、肺高血圧症を網羅したこの分類は診断の進歩に大きく寄与していると思われる。

表表 肺高血圧症の分類

重症度検査

重症度は、臨床症状に基づいたNYHA心機能分類およびWHO肺高血圧症機能分類により分類される。また、右心カテーテル検査、心エコー図検査、心電図検査、BNP値(右心室への負荷の指標)、運動耐容能(6分間歩行距離)、MRI等の検査結果から得られた重症度に関する情報を総合的に評価し、治療法を決定する。

以上が肺高血圧症診断の流れであり、まとめるとのようになる。確実な診断には肺高血圧症の専門医と連携して診断することが重要である。

図2図 肺高血圧症の診断の流れ

肺高血圧症診断の進展と今後の課題

佐藤氏は肺高血圧症の診断の歩みについて、自身の経験を振り返り、「1990年代の心エコー図検査の普及」、「1999年にわが国でもPAHの新しい治療薬が使用可能になり、治療へのモチベーションが増して診断方法の工夫がなされたこと」、さらに「重症度を判定するさまざまな検査手法が開発されたこと」などにより診断法が進歩してきたと述べた。

最後に佐藤氏は、「肺高血圧症は症状が労作時に出現しても安静時には出ない場合があり、こういった患者では通常の安静時に行う検査では肺高血圧症と診断されず、これが診断における課題の1つである。このようなケースでは運動負荷をかけて心エコー図検査を行う方法が有用であると考えられ、これにより現在よりも早期の段階で診断が可能になるだろう」と今後の診断法の進歩への期待を示し、講演を結んだ。

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