JCS
タイトル画像
講演4「膠原病による肺高血圧症」慶應義塾大学医学部 リウマチ内科 准教授桑名 正隆 氏

わが国で肺動脈性肺高血圧症(PAH)と診断されている患者のなかで最も多いのは、基礎疾患として膠原病をもつ患者である。そして、膠原病患者において肺高血圧症は主な死因の1つであることから、その克服は予後改善の課題となっている。

桑名氏は、膠原病による肺高血圧症について、基礎疾患の膠原病の解説とともに講演した。

膠原病―全身の結合組織における炎症と変性―

膠原病とは、全身に炎症が起こり、多くの臓器が障害される疾患の総称であり、1942年にKlempererによって、膠原組織(結合組織)に異常を来す疾患群に対して提唱されたことに端を発する。欧米では結合組織病と呼ばれている。膠原病に分類される疾患は多数あり症状も極めて多様であるが、共通してみられる特徴として、①病変での炎症、②関節、皮膚、腎臓、肺など多臓器の症状、③組織構造の改変・機能障害、④自己免疫現象、が挙げられる。

膠原病のうち最も患者が多いのは関節リウマチであり、わが国では約100万人の患者がいる。その他の膠原病はどれも希少疾患であり、厚生労働省から難病に指定されている疾患も多い。そのうち代表的な疾患を紹介すると、免疫異常により全身の臓器が障害され、皮膚の症状や腎臓障害が代表的な症状である「全身性エリテマトーデス(SLE)」、全身の臓器での炎症・線維化により肺機能低下、皮膚の硬化と循環障害を起こす「全身性強皮症(SSc)」、SLE、SSc、多発性筋炎/皮膚筋炎の臨床的特徴をもち、抗U1RNP(リボ核蛋白)抗体という自己抗体が高い抗体価を示し、手の腫脹や末梢循環障害であるレイノー現象が代表的な症状である「混合性結合組織病(MCTD)」などがある。

膠原病患者の予後と肺高血圧症

膠原病患者の予後は、免疫抑制療法を中心とした治療が進歩し、かなり改善した。しかし、SScなど一部の膠原病ではいまだに予後が悪く、SScでは10年生存率は70%程度にすぎない。SScの死因を調べると肺高血圧症が約1/4を占めており、膠原病患者全体の死因をみても、約半数を占める合併症(感染症、悪性腫瘍、心血管イベント)を除くと、間質性肺疾患に次いで肺高血圧症が2番目に多い。つまり、肺高血圧症は膠原病の難治性病態の1つであり、この疾患の克服なくして膠原病患者のさらなる予後改善は望めないといえる。

膠原病に伴うPAHと予後

膠原病患者での肺高血圧症を病態別にみると、PAHだけでなく左心疾患、肺疾患、血栓塞栓症に伴う肺高血圧症など、さまざまなタイプの肺高血圧症がみられる。そのなかで最も多いのはPAHで、約2/3を占める。膠原病に伴うPAHの患者は、わが国で少なくとも約3,000例と推測され、特発性PAH患者の2倍以上に上る。膠原病に伴うPAHがわが国のPAH患者のなかで最も多く、実に約60%を占めている。

この疾患の患者の予後は、1999年以降の複数のPAH治療薬の登場により改善されつつあり、慶應義塾大学病院のデータでも3年生存率は76%を達成しているものの、7年を過ぎると生存率は50%以下に低下してしまう。特にSScに伴うPAHは予後不良で、特発性PAHと比較しても悪い(図1)。このように、治療の選択肢が増えた現状でも膠原病に伴うPAHは予後不良であることがわかる。

図1図1 膠原病に伴うPAHと特発性PAHの生命予後

膠原病に伴うPAHの診断と治療

膠原病に伴うPAHの診断は、①スクリーニング、②右心カテーテル検査による診断の確定、③病態鑑別、④重症度の評価、の流れで行う。特発性PAHの診断手順と基本的には変わらないが、膠原病に伴うPAHにおいて特に重要となるのは、スクリーニングである。膠原病、特にMCTD、SSc患者はPAHのリスクが一般人の1,000倍以上と非常に高いため、労作時の息切れなどのPAHの症状がなくても定期的に心エコー検査などのスクリーニングを実施することが重要であり、これにより早期発見の確率を高めることが可能である。

膠原病に伴うPAHの治療は、膠原病に対する免疫抑制療法とPAH治療薬を組み合わせて行う。治療にあたっては、膠原病の疾患活動性が高い(免疫異常が強い)場合に発症するPAHには免疫抑制療法が非常に有効であるが、そうでない場合のPAHには免疫抑制療法はあまり有効でなく、PAH治療薬を優先的に使用する。以上をまとめると、膠原病に伴うPAHの診療のアルゴリズムは図2のようになる。

図2図2 膠原病に伴うPAHの診療アルゴリズム

予後改善のための今後の課題

前述のように、膠原病に伴うPAHの予後は特発性PAHと比較しても悪い。これは、膠原病患者では、PAH以外にも間質性肺疾患や心筋の障害、消化管の病変など、他の臓器病変を併発するためと考えられる。したがって、膠原病に伴うPAHでは、免疫抑制療法とPAH治療薬を組み合わせた治療を最適化し全身的管理をしていくことが、患者の予後改善に重要となる。

今後の新薬の登場が期待されるが、時間がかかるのも事実である。最後に桑名氏は、「膠原病による肺高血圧症の予後改善のためには、われわれ医療従事者が治療の最適化とともに、膠原病患者に対して肺高血圧症を疑いスクリーニング検査を行うことと、患者が自ら肺高血圧症への意識をもち、積極的にスクリーニング検査を受けるよう啓発活動をしていくことが重要である」と述べ、今後の課題とした。

▲PAGE TOP