高山 守正 氏

 講演3では、高山守正氏が日本における心肺蘇生の展開と題して、日本での心肺蘇生法の指針について解説した。このなかで同氏は、「日本の心肺蘇生は新たな段階へ入り、意識付けを重視した初期段階から2つのQ(Quantity:量、Quality:質)を求める時期へと移行してきた」と指摘し、今後はこれまで以上に地域・学校・家族などへの浸透ならびに心肺蘇生に関する科学研究の推進、「人を救う地域社会」の構築が重要になると強調した。

一次救命処置から専門的治療へつなげる救命の連鎖

図
図. 心停止から除細動までの時間と心拍再開の関係

 心肺蘇生は、一次救命処置(BLS:Basic Life Support)、二次救命処置(ACLS:Advanced Cardiovascular Life Support)、専門治療の3段階からなる。BLSは院内、院外を問わず心停止患者を発見した人達によって行われ、胸骨圧迫心臓マッサージや人工呼吸、あるいは自動体外式除細動器(AED)を用いた除細動を含む。ACLSは、搬送先の病院で行われる、より専門的な心肺脳蘇生治療である。心停止から除細動までの時間と心拍再開の関係をみると()、除細動成功による生存率は1分経過するごとに7〜10%低下し、院外での発症では救急車到着後の除細動による生存の可能性は低い。しかし、質の高い心臓マッサージが行われていれば、時間経過による生存率低下の程度を軽くすることができる。

日本における心肺蘇生:量と質の展開

 次に高山氏は、心肺蘇生の重要なポイントとして量と質の展開をあげた。量の展開とは、AEDの設置台数をさらに増やすことであり、BLSを実施できる人を増やすことである。質の展開とは、有効な心肺蘇生法を行うことで脳の傷害を最小限にくいとめ、その後の社会復帰率の向上を目指すものである。これらを実現するためには、一般市民にも、質の高い心肺蘇生法教育を広く実施することが不可欠である。そして、その指導者を育てるべく、日本循環器学会では、世界標準として認められている米国心臓協会(AHA)の心肺蘇生トレーニングを日本で実施するため日本循環器学会国際トレーニングセンター(JCS−ITC)を開設し、BLSおよびACLS講習を全国で展開している。

日本版心肺蘇生ガイドラインの策定

 心肺蘇生の世界的な動向としては、2005年に国際蘇生連絡協議会(ILCOR)が「心肺蘇生と緊急心血管治療のための科学と治療の推奨に関わる国際コンセンサス2005(CoSTR)」を発表した。CoSTRは心肺蘇生に関する科学的根拠の集大成であり、これを基にAHAや欧州蘇生会議(ERC)もそれぞれのガイドラインを策定した。日本でも、救急医療財団が中心となって『救急蘇生法の指針2005年度版』を策定した。
 日本版心肺蘇生ガイドラインの特徴は、日本の現場、つまり救急システムや使用できる薬剤などをすべて包括したうえに国際的な最新のエビデンスを実際的な方法として示した点にある。特に、これまでは各専門領域のガイドライン等によって別々に示されてきたものが、発症現場から専門治療施設の病床まで一連にまとめられた事が大きい。

地域における救急医療の連携体制が突然死を救う

 院外心停止の過半数を占める急性冠症候群(心臓突然死、急性心筋梗塞、急性心不全など)患者を救うには、心停止から専門的治療開始までの時間を短縮することが重要である。そのためには、市民からの迅速な救急要請と専門施設までの迅速な救急搬送および施設での適切な処置が不可欠であり、従来の2次、3次救急体制とは異なったコンセプトが必要である。高山氏が会長を勤める東京都CCU連絡協議会では、東京都内の冠動脈疾患管理室(CCU)を備えた医療施設をネットワーク化して、より迅速な救急搬送と施設への収容、専門処置の開始を行っており、年間4,000例を超える急性心筋梗塞の院内死亡は2005年には6%以下へと低下してきている。
 高山氏は「一刻も早く適切な処置を開始するには、地域の医療事情に合わせた医療連携体制の構築が急務」と述べ、講演を締めくくった。