心筋梗塞のリハビリテーション 北里大学医学部 循環器内科学 教授 和泉  徹 氏

 少子高齢化が進むわが国では、高齢者および複数の疾患を抱える患者の増加に伴う医療費の増加が問題となっている。心筋梗塞は再発率が高いため、その発症を抑えることで医療費を抑制することが可能になる。
 本講演において和泉氏は、心臓リハビリテーションが抱える問題点を提示し、心筋梗塞の再発予防における心臓リハビリテーションの有効性、さらには心臓リハビリテーションの普及による相対的な医療費削減の重要性を訴求した。

心臓疾患を予防する心臓リハビリテーション

図1

図1 運動心臓リハビリテーションのリスク低減効果

 心筋梗塞は、繰り返し発症する患者が増加する傾向にある。再発を重ねると最後は心不全となり、起座呼吸という呼吸困難な状態に陥る。すなわち重要なのは、初発時にカテーテルによる治療が行われた後、「心筋梗塞の再発をどのように予防するか」を考慮することであり、これが、心臓リハビリテーションの基本的な考え方となる。心臓リハビリテーションの目的は、「心疾患による身体的・精神的・社会的機能の低下(Deconditioning)の是正」、「QOLの向上」、「発症・再発予防」、と非常にわかりやすい。
 心臓リハビリテーションはチーム医療であり、その内容は、①患者のリスクに応じたリハビリ内容の設定、②リハビリ処方、③運動療法、④リハビリアップに伴うバイタルサインおよび心電図のチェック、⑤日常生活動作(ADL)に応じたリハビリゴールの設定、⑥冠危険因子の評価と是正、⑦復職指導、カウンセリングである。今日では、運動心臓リハビリテーションが主体であり、その効果は、心筋梗塞発症後に行うと総死亡のリスクを20%軽減し、致死性心筋梗塞はリスクを25%軽減する(図1)
 リハビリテーションの対象患者は、これまでは急性心筋梗塞や狭心症が主体であったが、現在では適応が拡大され、慢性心不全や末梢動脈閉塞性疾患(ASO)の患者も対象となっている。

心臓リハビリテーションの4つの問題点

 和泉氏は、心筋梗塞を繰り返すことの危険性、そしてそれを予防するための心臓リハビリテーションの重要性を示す一方で、「心臓リハビリテーションを取り巻く環境には、問題が山積している」として、4つのポイントを挙げた。

1. 有効に機能する施設の普及
 「専門医研修施設における急性心筋梗塞症の診療状況」(図2)をみると、ほぼ100%の施設が急性心筋梗塞患者の入院受け入れをし、同様に90%以上の施設が冠動脈インターベンション(PCI)を実施している。一方、心臓リハビリテーション施設として認定されている施設は12%と非常に少なく、これはリハビリテーションがあまり普及していないことを示している。

図2

図2 専門医研修施設における急性心筋梗塞症の診察状況

2. 多疾患有病者の疾病管理
 和泉氏の施設において、心筋梗塞の患者1,000人の合併症保有率を調べたところ、心疾患以外に合併症がない患者は8.4%のみであった。一方、高血圧合併は60%、脂質異常症合併が53%、糖尿病合併が39%、心疾患の他に病気を3つ以上持っている患者は50%にものぼった。循環器医は、こうした多疾患有病者に対する指導が非常に重要となる。

3. 高齢者医療の医療負担
 厚生労働省の発表によると、少子高齢化が進行している日本では、65歳以上の人口割合が2000年で17%、2050年には38%になる。少子高齢化の進行は医療負担の増加、それも次世代負担の増加を招く。また、高齢かつ多疾患有病者の増加によって、要介護者も増加する。さらに、要介護認定基準が5(介護なしには日常生活を営むことがほぼ不可能)となる人は、健常者2.2人から2.4人の支援が必要になる。

4. 維持期リハビリテーションと保険診療
 65歳以上の人では運動機能の低下が顕著にみられるため、維持期のリハビリテーションにおいては地域の理学療法士のサポートを要する。こうした地域との連携によるチーム医療は、一見コスト増にみえるが、目的は「元気なお年寄りをたくさんつくる」というシンプルなものであり、医療費は相対的に安くなると考えられる。ただし、これらの実現には、医療保険、生命保険、介護保険などの保険制度を総合的に改善していく必要がある。和泉氏は「維持期における医療保険は、豊かな人生を買い取りたいという人たちへのサービスであってもいいのではないか」と述べ、保険制度には、さまざまな課題が残されているとした。
 また、和泉氏は「強固なチームワークと高尚な考え方が要求される、心臓リハビリテーションに対する診療報酬が低額であることも問題」と指摘した。平成20年度の診療報酬改定では、心臓リハビリテーションは算定日数の上限が150日、診療報酬が1回20分で200点であり、これは多くの報道でも「医療保険制度においてリハビリテーションの日数が押さえられた」と問題視された。
 最後に和泉氏は、「心臓リハビリテーションの継続は、患者の一生を支配するものであり、それがどのように維持されるかというストーリーが必要である」と強く訴え、講演を締めくくった。