日本循環器学会
第4回 日本循環器学会プレスセミナー
「改正臓器移植法の改正点とわが国の心臓移植の現状」

心臓移植は世界的には標準的な治療法でありながら、わが国では多くの患者がその恩恵を受けられずにいた。しかし、2010年7月に改正臓器移植法が施行され、法的にはわが国もようやくスタートラインについたといえる。

心臓移植委員会の幹事を務める西垣氏は、わが国の心臓移植のこれまでの状況と、改正臓器移植法施行後の展望について述べた。

世界と日本の心臓移植の実施状況

心臓移植とは、すべての治療をやり尽くしても、救命ないし延命の期待が持てない重症心不全を対象としており、QOLや医療経済効率の視点からも優れ、世界的に認知された標準的な治療法である。適応患者は米国で年間およそ6,600人といわれ、世界的には年間3,300~3,400例の心臓移植が実施されている。また、アジアにおいても心臓移植は一般的な治療法となりつつあり、韓国では2008年だけでも80例を超えている。
 一方、国内の心臓移植実施症例数は1997年?2010年7月31日時点で69例にとどまり、近年でも年間10例前後である。国内の心臓移植適応患者は潜在的には500 例前後存在すると考えられ、心臓移植の恩恵を受けられずに亡くなる患者が大多数である。また、度々話題となる海外に渡航して心臓移植を受ける患者も後を絶たない。

わが国の心臓移植レシピエントの申請状況と予後

わが国では、日本循環器学会心臓移植委員会適応検討小委員会が、レシピエント診療施設と移植実施施設から心臓移植適応評価の申請を受け、判定を行う。適応検討小委員会では1997年3月?2010年9月22日までに、申請症例数668例に対して、662例の検討を行ってきた。

その結果、適応が569例で、このうち96例が海外渡航移植を受けた。日本臓器移植ネットワークに登録された患者は394例で、54例がネットワーク登録に到達できずに亡くなっている。また、ネットワークに登録された患者のうち、移植を受けた患者は76例であり、142例が移植待機中に亡くなっている。そして、現在も移植待機中の患者は163例に上る(2010年9月22日時点)。

レシピエント660例について、予後調査を行った。1997年3月1日?2010年8月1日までの追跡調査では、移植適応患者は567例であった。平均年齢は32歳で、年齢分布は20~40歳代が多く、30歳代がピークであった。また、15歳未満が15%含まれ、男女比では男性が女性に対し2.5 倍多かった。適応患者の基礎疾患の内訳は、拡張型心筋症や拡張相肥大型心筋症をはじめとした心筋症が約8割を占めていた。

適応患者の転帰をみると、生存336例、死亡213例となっており、生存者のうち148例は国内外で心臓移植を受けた患者である。死亡した患者213例のうち、200例は移植を受けておらず、心臓移植を受けて死亡した患者は13例であった。

心臓移植を受けた患者の12年後の生存率は、国内移植患者では90%以上、海外移植患者でも80%以上で、これは世界平均の45%と比較し驚くべき優れた結果である。また、心臓移植を受けた患者のなかで、入院している患者は3例で、137例は外来通院している。さらに、111例が社会復帰を果たしており、心臓移植はまさに究極の治療法といえる。

臓器移植法の改正と改正後の状況

2006年頃から、心臓移植委員会への適応検討申請数、臓器移植ネットワーク待機登録患者数ともに加速度的に増えている状況に加え、1997年の臓器移植法の制定以来、臓器移植法の見直しがなされていなかった。このような状況のなか、日本循環器学会をはじめとする関連学会は臓器移植法の改正を要望し続けてきた結果、ようやく2010年7月、改正臓器移植法の施行に至った。改正臓器移植法の要点()は、

の2点で、いずれもWHOの推奨する世界標準に準拠しており、わが国の心臓移植もようやくスタートラインについたといえる。また、改正臓器移植法の適用に際しては、18歳未満のドナーから提供された心臓は、同じ18歳未満のレシピエントに優先的に移植することも決められた。

日本循環器学会心臓移植委員会では、この改正臓器移植法の施行にあたり、『わが国における心臓移植体制と今後の日本循環器学会心臓移植委員会活動の在り方に関する提言』をホームページ上に公開している。このなかで移植実施施設の拡大を提言し、心臓移植実施施設認定審議委員会を早期に発足させて、移植実施施設の公募を行った。その結果、2010年7月に新たに3施設(北海道大学、埼玉医科大学国際医療センター、岡山大学)を認定し、従来の6施設とあわせて全国で9施設となった。また、わが国では初めて小児ドナーの移植実施施設(東京大学、大阪大学、国立循環器病研究センター)を認定した。
 7月の改正法の施行以降、臓器提供、心臓移植実施症例数ともに増えており、2010年9月21日までの国内の心臓移植累積実施数も76例となっている(図)。西垣氏はこの現状について、「日本でも年間で韓国と同程度以上の心臓移植が実施されることを目指しているが、その状況に近づきつつある」と述べ、講演を締めくくった。

2010年1月17日より順次施行

  現行法(改正前) 改正法 施行日
親族に対する
優先提供
当面見合わせる
 (ガイドライン)
臓器の優先提供を認める 平成22年
1月17日
臓器摘出の
要件
本人の書面による臓器提供の意思表示があった場合であって、遺族がこれを拒まないとき又は遺族がないとき 本人の書面による臓器提供の意思表示があった場合であって、遺族がこれを拒まないとき又は遺族がないとき
又は
本人の臓器提供の意思が不明の場合であって、遺族がこれを書面により承諾するとき
平成22年
7月17日
臓器摘出に係る
脳死判定の要件
本人が
A:書面により臓器提供の意思表示をし、かつ、
B:脳死判定に従う意思を書面により表示している場合
であって、家族が脳死判定を拒まないとき又は家族がないとき
本人が
A:書面により臓器提供の意思表示をし、 かつ、
B:脳死判定の拒否の意思表示をしている場合以外の場合
であって、家族が脳死判定を拒まないとき又は家族がないとき
又は
本人について
A:臓器提供の意思が不明であり、かつ、
B:脳死判定の拒否の意思表示をしている場合以外の場合
であって、家族が脳死判定を行うことを書面により承諾するとき
小児の取扱い 15歳以上の方の意思表示を有効とする(ガイドライン) 家族の書面による承諾により、15歳未満の方からの臓器提供が可能になる
被虐待児への
対応
(規定なし) 虐待を受けて死亡した児童から臓器が提供されることのないよう適切に対応
普及・啓発
活動等
(規定なし) 運転免許証等への意思表示の記載を可能にする等の施策
表 改正臓器移植法の骨子
表1図 日本の心臓移植症例数の推移

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