日本循環器学会
第4回 日本循環器学会プレスセミナー
「心臓移植の実際 -周術期管理と成績-」

心臓移植は、可能な限りの手段を施しても延命できない重症の心不全患者に対する治療として、世界的に最も優れた成績を示している治療法である。わが国でもようやく、改正臓器移植法の施行を受けて心臓移植の増加の兆しがみえてきた。

小林氏は国立循環器病研究センターでの心臓移植の実例を交え、心臓移植の実際について紹介した。

心臓移植の適応条件

心臓移植の適応となる疾患は、拡張型心筋症および拡張相の肥大型心筋症や虚血性心疾患などで、従来の治療法では救命・延命の期待がもてない重症心疾患である。また、移植の適応条件には、不治の末期的状態にあり、①長期間または繰り返し入院治療を必要とする心不全、②β遮断薬およびACE阻害薬を含む従来の治療法ではNYHA機能分類 III~IV度から改善しない心不全、③現存するいかなる治療法でも無効な致死的重症不整脈を有する症例であること、などが挙げられる。

心臓移植の実際

ドナー心の適応基準

ドナー候補者が現れた場合、ドナー心としての基準を満たすかどうかを判断しなくてはならない。ドナー心の適応基準は、全身性の活動性感染や悪性腫瘍がないことなどがあり、最終的な判断は、心電図・心エコー上の異常所見がないこと、さらに開胸して心臓に外傷がないかなどを確認し、評価を行う。

ドナー・レシピエントの適合

ドナー・レシピエントの適合条件には、ABO血液型の一致、体重差が少ないこと(国立循環器病研究センターでは、レシピエントの体重がドナーの-20%~+50%)、前感作抗体のないこと(直接Tリンパ球交叉試験などを実施)などがある。レシピエント選択での優先順位は、血液型の一致、待機期間、ドナーおよびレシピエントの状態の順に勘案して決定する。

心臓移植手術の手法

レシピエントは全身麻酔・人工心肺の管理のもとで、心房を残して心臓を摘出する。摘出後、ドナーの心臓の吻合は、左房、右房、肺動脈、大動脈の順に行う(肺動脈、大動脈の順に吻合する場合もある)。この術式はLower-Shumway 法と呼ばれ、日本の約3分の1の移植手術はこの方法が採用されている。他の方法では、レシピエントの左房後壁だけを残し、右房は上下大動脈で吻合するbicaval法もあるが、国立循環器病研究センターでは、bicaval法を改良したmodified bicaval法を採用している。Modified bicaval法では、上大静脈と下大静脈を完全に切離せず、右房後壁を残して上・下大静脈を繋ぐ方法である。この方法は国立循環器病研究センターで開発された方法で、日本の約3分の2の移植手術でこの方法が採用されている(図1)

大動脈を吻合後、大動脈遮断を解除し、冠動脈から心臓に血流を送り虚血時間を短縮する。心臓が体循環を維持できるようになった後、閉胸を行う。

術後の管理

心臓移植後、レシピエントは移植臓器の拒絶反応を抑制するため免疫抑制療法が必須となる。免疫抑制療法は、<カルシニューリン阻害剤+核酸合成阻害剤+ステロイド>の3剤併用療法が主体となっている。カルシニューリン阻害剤ではシクロスポリンあるいはタクロリムス、核酸合成阻害剤ではミコフェノール酸モフェチル、ステロイドではプレドニゾロンが主に使用されている。最近では、腎機能が悪い症例などで、導入療法としてIL2受容体抗体のバシリキシマブが使用されるようになっている。移植後は心筋生検による拒絶反応のチェックが必須であり、心筋生検を定期的に行うほか、IVUS、冠動脈造影により拒絶反応を管理する。

また、免疫抑制剤により免疫力が低下すると感染症に罹患しやすくなるため、感染症に対する予防的治療を行う。感染症予防に用いるのは、抗生物質ではMRSA対策としてバンコマイシン、グラム陰性菌対策としてアズトレオナム、ウイルス対策としてCMV(サイトメガロウイルス)高力価γ-グロブリン、さらに抗真菌薬などがある。
 慢性期では、合併症の早期発見・治療が中心となる。慢性期合併症のひとつに、移植後冠動脈病変があり、冠動脈の内膜が肥厚し内腔が狭小化する疾患で、注意を要する。従来、有効な対処法がなかったが、最近ではmTOR阻害剤のエベロリムスの内膜肥厚抑制効果が期待されており、国立循環器病研究センターでも使い始めている。他の慢性期合併症としては、高血圧、腎機能障害、高脂血症、糖尿病、悪性腫瘍などがあるが、国立循環器病研究センターでの発症は海外の報告より少なく、悪性腫瘍の経験はない。

わが国の心臓移植手術の成績

わが国の心臓移植手術の成績は世界的にみても非常に良好である(図2)。その理由として、わが国の管理能力・技術が優れていること、小児において先天性心疾患への心臓移植が行われていないことなどが考えられる。

最後に小林氏は、「心臓移植を特殊な治療とは捉えておらず、緊急手術のひとつとして他の手術と並行して行っている」と述べ、心臓移植が通常の医療行為としてわが国で普及することへの期待を示し、講演を締めくくった。

図1図1 わが国の心臓移植手術術式の割合
図2図2 世界および日本における心臓移植の累積生存率

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