日本循環器学会
第4回 日本循環器学会プレスセミナー
「改正臓器移植法下での心臓移植 -将来の展望-」

2010年7月に改正臓器移植法が施行されたものの、日本の心臓移植はまだ導入期の段階であり、決して普及期、安定期とはいえない。心臓移植委員会の委員長を務める和泉氏は、今後の心臓移植の進展には、医療において社会が負うべき負担の議論、そして人類的な視座からの議論が必要であるとし、心臓移植医療の展望を述べた。

ドナーの負託に応える心臓移植の展開

移植医療は、ドナーが現れてはじめて成立するが、日本ではドナーが現れにくいために問題が発生している。これは、ドナーが現れる仕組みを社会が議論してこなかったために抱えている問題ともいえる。世界的にもドナー基準の拡大が議論され、標準的なドナー適応基準を満たしていないドナーを求める動きが起こっている。そこまでドナー不足に悩んでいるのが、移植医療の先進地域の実態である。

これだけドナーが求められているのであるから、ドナーに対する、社会的な顕彰の仕組みがあってもおかしくはない。これまでも、レシピエントの選択をする際に、ドナーの負託に可能な限り応えるよう努めてきてはいるが、日本で移植医療を拡げていくには、この姿勢を今後も継続する必要がある。特に、小児の移植を円滑に普及していくために重要なポイントといえよう。

小児移植の到達目標

これからの小児の心臓移植の普及を考えるとき、どのくらいのレベルを到達目標とすればよいのか。UNOS(全米臓器配分ネットワーク)が発表しているデータ(1999~2003年)によると、登録後6カ月以内に心臓移植を受けた小児患者の割合は、Status 1(移植直前の緊急度が非常に高い状態)の患者では62%(図1)、Status 2の患者では59%となっている。これは、適応が決まった小児患者の3人中2人は6カ月以内に移植が受けられる組織を維持しているということであり、参考となる指標である。

実施施設が主体となる移植医療運営

現行のレシピエント評価判定・登録システムでは、移植実施施設から申請されたレシピエント候補は、日本循環器学会心臓移植委員会がすべての症例の適応を判定し、さらに日本臓器移植ネットワークのレシピエント登録を行っている。今後、レシピエント申請の増加が予想されるなか、このシステムを維持することは物理的に不可能であり、将来的には、移植実施施設の協議体が適応を判定するようになることが望ましい。申請症例・移植実施数が多い施設から徐々に、協議体が適応を判定する体制に移行していき、それぞれの施設での評価判定に対して日本循環器学会が学術的な立場から検証を行う。このようなシステムにしていくことが望まれる。

重症心不全医療の在り方

わが国のような長寿社会での心不全医療を考えるには、根本的な治療を目指す「キュア」と、「ケア」があることを念頭に置かなければならない。つまり、治療の過程のある時期からは、ホスピス治療に入らざるをえない状況も生じる。そのときには、患者と家族の同意だけでなく、社会のコンセンサスが必要になる。そういう意味では、これはマスメディアが真剣に取り組むべき領域である。

また、重症心不全医療の在り方については、3つの観点から考えなくてはならない。それは、①健全さの度合いである「QALY(質調整生存率;QOLで調整された余命)」と、②「期待余命期間」、③その医療を支える人的・資金的な「コスト」、の3つである(図2)。心不全治療において心臓移植あるいは人工心臓は、人間が自然に亡くなっていくところに強力な介入を加え、多くの場合、患者は健全さを取り戻すまでになる。しかし、取り戻した健全さも、時間とともに徐々に失われていく。これらの医療行為を支える社会には、人的・資金的コストが重くのし掛かってくる。この負担に社会が耐えられるのか、また、この負担を負うことに対し社会のコンセンサスが得られるのか。この議論を抜きにして今後の移植医療を展望することはできない。

最後に和泉氏は「私たちの議論により到達した結論をもとにアジアの国々と話し合い、将来的にはアジアの国々とドナーハートをお互いに融通することも考えていくべきであろう」と述べ、今後の日本の移植医療は世界的な視点から展開していく必要性があることを訴えた。

図1図1 小児心臓移植 Status 1患者の成績(UNOS)
図2図2 心不全治療の効果とコスト

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