日本循環器学会
第4回 日本循環器学会プレスセミナー
「小児における心臓移植の実際とその問題点」

日本でこれまでに行われた小児の心臓移植は極めて少ない。改正臓器移植法が施行され、今後は増加が予想されるものの、普及に当たっては問題点も山積している。
 佐野氏は、今後の普及のための「デバイスラグ」の解決や、患者・家族のサポート体制の確立について訴えた。

海外渡航移植への希望と現実

2010年7月より改正臓器移植法が施行されたが、それ以前は15歳以上からの臓器提供しか認められておらず、また、小児用補助人工心臓(後述)が国内では今も使用できないという問題がある。したがって、わが国では体重約15kg以下の小児は心臓移植を受けることが難しく、現実的には海外渡航移植を受けるしかなかった。このような状況下、2010年9月22日までに48例が海外渡航移植を受けたが、海外渡航移植を希望しても、移植適応と判定されてから渡航・移植に至るまでに多くの手順を踏まなくてはならず、移植を受ける前に亡くなってしまう子供も多かった。

日本の小児心臓移植待機患者の現状

国内で2010年9月22日までに、心臓移植の適応と判定された患者は569例、そのうち小児(15歳未満)は84例で、国内で移植を受けたのは4例のみである。小児の心臓移植待機患者の転帰については、日本小児循環器学会臓器移植委員会による1998~2002年の追跡調査があるが(図)、この間に小児期心筋症で移植適応と判定された小児は66例であった。原疾患の内訳は拡張型心筋症が68%、拡張相肥大型心筋症12%、拘束型心筋症12%、その他8%であった。予後をみると、2002年時点で66例のうち死亡例は48例に上り、大多数が亡くなっているのが現状である。しかも移植適応と判定されてからの平均生存期間はわずか7.5カ月で、成人と比べて著しく短い。

また、重症先天性心疾患の患者のなかには移植でしか助からない患者がいるが、移植登録をしても現実的に移植を受けられる見込みがないため、患者のほとんどが移植登録をしなかった。成人に比べて小児の心臓移植適応症例数が明らかに少ないのは、こうした事実も影響しているのであろう。

海外での小児心臓移植-米国アーカンサス小児病院を例に

次に、海外での小児心臓移植の状況について、米国アーカンサス小児病院を例に紹介する。

アーカンサス小児病院は米国アーカンソー州リトルロックにあり、ベッド数290、医師は約500名、そのうち小児循環器医が19名在籍する病院である。心臓移植実施症例数は224例で、多いときには年間27例行った実績がある。移植実施患者の疾患の内訳は、先天性心奇形が58%を占め、これはわが国との大きな違いである。次いで心筋症・心筋炎が37%、心臓移植の再手術が5%となっている。年齢分布では、1歳未満が34%で、1歳未満~5歳で全体の58%を占める。移植後の成績は、先天性心奇形を患者に含むものの、15年生存率は約60%と決して悪くない。また、心臓移植まで機械的補助(ブリッジ)を行った症例が224例中73例あり、48例がECMO(膜型人工肺)を、25例が補助人工心臓を使用していた。

デバイスラグ

アーカンサス小児病院の多くの症例で、ECMOや補助人工心臓を用いていたように、ブリッジは心臓移植に不可欠であり、ブリッジ期間中にリハビリをして肝機能などを改善してから心臓移植をした方が、はるかに予後が良いことがわかっている。ただ、ECMOは短期間の補助であり、ブリッジ期間が長期になる場合には適さないので、その場合は補助人工心臓を使用する。小児用の補助人工心臓として最もよく用いられているのはEXCOR(Berlin Heart社)であるが、わが国ではEXCORの使用は承認されていない。EXCORに限らず、国内では成人用も含め、補助人工心臓の承認が海外に比べて大きく遅れている(表)。海外で使用されている医療機器が使用できないという、この「デバイスラグ」の問題が解消しないと、心臓移植・心不全の管理において世界に肩を並べることはできない。

今後の課題

今後の課題としては、デバイスラグを解消するべく、小児用補助人工心臓の使用の早期承認と、新たな小児用補助人工心臓の開発が求められる。

また、小児心臓移植のレシピエントの年齢分布をみると、0~1歳児が最も多く、その多くは小児専門の施設に入院している。そのため、小児医療専門機関が現状より強く関与するシステムが必要であり、さもなくば0~1歳といった小児への移植が現実的なものにならない。

さらに、心臓移植数の増加が見込まれるなか、日本臓器移植ネットワーク、移植コーディネーターなどのスタッフの充実も急務である。現状のスタッフ数では、すぐに対応しきれなくなると考えられる。

最後に佐野氏は、「小児特有の問題として、学校生活や反抗期になると薬を飲まなくなるなど、さまざまな問題がある。これらの子供、さらに家族もサポートする社会的・経済的基盤の確立も必要であろう」と訴えた。

図1図 小児期心筋症の全国調査-原疾患と予後
表表 デバイスラグ-日本での補助人工心臓の承認状況

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